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人災派遣のフレイムアップ 第3話 『中央道カーチェイサー』 2

『月刊少年あかつき』。
 
 それが『えるみかスクランブル』の掲載雑誌の名前である。
 決してメジャーどころではないが、タイトルは若い世代なら大抵知っているマンガ雑誌だ。ただし読んでいる人はそれ程多くなく、コンビニでもなかなか見かけない。そのくせ掲載されているマンガの中でトップの人気を誇る作品――『えるみか』はまさにその一つだ――は、誰もが一度はアニメくらいは見た事がある。そんな微妙なバランスを保ったこの月刊誌の存在が、今回のお仕事のそもそもの発端である。
 
 『少年あかつき』を刊行しているのは、大手出版社ホーリック。実用書や文芸小説、ビジネス雑誌を中心としてシェアを確保している、いわゆる『お堅い』会社である。そんなホーリックが突如月刊の、しかも少年マンガ雑誌などと言う畑違いのジャンルに進出したのが十数年前。
 噂によれば、何でも叩き上げの当代の社長が『現代の少年達が、世間に蔓延る有害な漫画に触れて育てば、必ず二十年後の国家に深刻な悪影響を及ぼす』と息巻いたのがきっかけなのだとか。おれからしてみれば、ならそんな有害なマンガなんぞに関わらなければいいじゃないか、と思うのだが、一代で出版社を立ち上げた傑物の考えることは違った。彼の出した結論とは、『然らば、我々が率先して良質な漫画を供給し、以って少年達を啓蒙し健全な精神を育ませるべし』だったのだそうだ。世間ではこういうのを『大きなお世話』と言う。君、テストに出るから覚えておくようにね。
 
 ……当然と言えば当然なのだが、そんな社長が提起した『良質な漫画』、つまりはお堅くて品行方正で説教臭いモノばかりが集められた創刊号は、そりゃあもう致命的なまでに売れなかったらしい。当時の業界では「殿、ご乱心」なんて陰口が無数に飛び交ったのだそうだ。だが、当の社長はそんな逆風にめげることなく、他部門の利益を注ぎ込んで販促を行い、各誌から一昔前のいわゆる『旧き良き』時代の人気作家を招聘し、この『あかつき』を保護し続けた。土が悪くても肥料と水を与え続ければなんとか苗木が育つように、『あかつき』はそれなりには雑誌として成長を遂げていったのである。おおよそ十年前までは。おれは依頼を受けるに至った経緯を思い返した。
 
「十年前、その当時の社長が病気で引退されてから、『あかつき』の方向性は大きく変わりました」
 今回の依頼人、弓削かをるさんはそう言ってアイスティーに口をつけた。東京都は高田馬場、『フレイムアップ』の簡易応接室である。節電精神を遵守して稼動するエアコンでは降り注ぐ赤外線のスコールに抗し切れないようで、部屋の中は良く言っても『どうにか暑くない』程度だった。応接に陣取る三者のうち、おれと浅葱所長は時折扇子や書類で風を起こして涼を補っていたが、当のクライアントは汗一つ浮かべず端然としたものである。ビジネススーツに身を包んだ一分の隙も無いその姿は、ホーリックの女編集者というよりは、どこかの検事と言った雰囲気だ、それもヤリ手の。こんな人が編集についた漫画家は、そりゃもう〆切という契約の重みを身をもって味わう事になるのだろう。
「もともと社長の道楽で創めたような雑誌でしたから、編集者達もどちらかと言えば事務的に仕事を捌いていました。しかし、社長が引退したからといって即廃刊と言うわけにはいかない。当時の編集者達は四苦八苦しながら慣れないマンガ編集に携わってゆき――」
「やがて本気になった、と」
 弓削さんの冷たい視線がおれの顔を一撫でする。どうやら自分の言葉に割り込まれるのはお好きではないタイプの模様。そのまま言葉を続けて頂く。
「特に若手の編集者達は、これを好機と捉えた者も多く、それぞれが独自の基準で新人や他雑誌の作家を発掘し、登用して行きました。それからさらに試行錯誤の十年を経て、今につながる『あかつきマンガ』の作風が確立されるに到ったのです」
「あかつきマンガ、ねぇ」
 おれは口の中で呟く。こりゃどう考えても、おれより直樹の野郎の領分だよなあ。確かあいつの部屋は、『あかつきコミック』が壁の一面を飾っていたはずだし。
 
 ヤツの受け売りになるが、まあ何だ、弓削さんの言う『今につながるあかつきコミック』ってのは、若い男性向けの、繊細な絵柄の美少女、もしくは美女美少年の魅力をウリとしたマンガを指す、のだそうだ。奴等の世間ではそういうのを『萌えマンガ』と言う、らしい(正しく言葉を引用出来ている自信はおれには無い)。率直に言えば、おれにとって興味の無いジャンル、というわけ。
 『えるみかスクランブル』はまさにその典型で、十数人の美少女と、彼女達を守護する天使の名前がつけられたロボット達が、魔界の侵略者から地球を守る、と言った内容である。主人公(とくにこれと言った取り柄はないのだがなぜかモテる)とレパートリーに富んだ美少女達の恋愛模様、ロボット同士のド派手な戦闘が若い世代に受けている、らしい。って言うとおれがいかにも若い世代ではないみたいだが。
 それにしても、そのあかつきコミックの起源が『世間に蔓延る有害な漫画を駆逐する』事にあったとすれば、とかく周囲から偏見の目で見られがちの今の『あかつきマンガ』の姿は皮肉としか言いようが無い。先代社長もさぞかし草葉の陰で嘆いておられる事であろう。
 
「そう。嘆いていたのです。だから十年の闘病生活を経て、奇跡的に病気を克服した今、現在の事態を許すはずがなかったのです」
 おっと。病気で引退したっつっても死んだわけでもなかったか。しかし結構いい歳だろうに。
「御歳七十五。あと十五年は現役を張るつもりだそうです」
 さいでっか。
「社長が奇跡的に退院し、再び現職に返り咲いたのが一年前。そこから『あかつき』の編集部内には、粛清の逆風が吹き荒れる事となりました」
 掲載されているマンガには興味が無いおれも、その話は業界四方山話として知っていた。強引な上層部の方針転換に対する、作家と若手編集者達の造反。業界内で、『あかつき御家騒動』、もしくは『ルシフェル事変』と呼ばれる一連の騒動が巻き起こったのである。
カテゴリー:_小説3話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2016年01月26日 (火)00時35分