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人災派遣のフレイムアップ 第7話 『壱番街サーベイヤー』 17-a

 路地裏を風が吹き抜けた。

 突如、怖気(おぞけ)が走った。
 全身の肌が粟立ち、毛が逆立つ。
 
 すでにその時、路地裏の乱闘は決着がつきかけていた。十数人いたチンピラのほとんどは真凛に打ち倒され、おれは今度こそ皇女を連れて事務所へ戻る準備をしていたのだが。
「……っ!お出ましかよ!」
 晩秋の夜よりなお寒い、そしてなにがしかの”悪い”モノが含まれた、底冷えするような風。不浄な”瘴気”とも少し違う。幸か不幸か、おれは今までの経験でその正体を知っていた。”陰風(いんぷう)”。ヒトからはみ出した存在(モノ)、あるいはヒトならざる怪異(モノ)がその力と共に解き放つ邪悪な気配。――すなわちその意味は、
「上だっ!」
「受け身っ!!」
 おれと真凛の叫びが同時にあがる。夜の闇よりなお暗い、ネオンの光も通さぬ黒いかたまりが、明確な殺意を以ておれの頭上に落ちかかってきていた。
 とっさに皇女を抱えるおれの背中を、真凛が思いっきり蹴り飛ばし、反動で自分も飛んだ。絶妙の判断。おれ達が左右に別れた一瞬あとの空間を、大質量の黒い塊が押しつぶしていた。
 轟音、破砕。打ち割られたアスファルトの破片が飛び散り、おれの背中にいくつも跳ねた。降り注ぐ砂埃の中、真凛の警告通り受け身を取って起き上がったおれと皇女が見たものは。
「シイイィィィィィ……!!」
 黒い靄の中に佇む、獣、だった。
 いや、基本的なシルエットは人間――二メートル近い長身、屈強な筋肉質の体躯、無骨なミリタリー装備に身を固めたその姿は、日本ではまず目にすることは出来ないとしても――、確かに人型のそれである。直観。精神をシフト。小声で呟く。
『亘理陽司とファリス・シィ・カラーティに――』
 だが、その全身から立ち上る禍々しい黒い靄が、明らかに男がまっとうなヒトのそれではない事を示している。そして両腕と顔は黒い斑点混じりの銀色の体毛にびっしりと覆われ、大きく張り出した顎から覗く牙、金色に輝く瞳孔は、まさしく獣、それも獰猛な猫科の生き物のそれであった。長く突き出した首、異常に発達した背中と、曲げられた脚にたわめられた筋肉、そして浮かせた踵が、”猫背”を形成している。もちろん不健康な姿勢のそれではない。瞬時に得物に飛びかかることを可能とする、危険な発條(バネ)。
『致命打は――』
 そしてその両腕で逆手に握られ地面に突き立てられているのは、長大な鉄の棒であった。中央の持ち手のみが人間が握れる程度の細さだが、それ以外の箇所は梁のように太い。奴は上空からの落下速度、己の膂力、そしてこの鉄塊の重さを一点に集約して俺を叩き潰そうとしたのだ。直撃していれば、俺は頭から踵まで圧縮された肉塊に成りはてていただろう。
『小僧共、カンはいいようだな』
 黒い靄を周囲に放射しながら、獣が異形の口腔を器用に動かし西域の語を発音する。瞳孔が俺を見据える――と同時に、筋肉で形成された異形の猫背が弾けた。
『――当たらない!』
 紡ぎ上げられた言葉が『鍵』を形成する。
「ヌゥッ!?」
 先読みの博打は見事に当たった。おれを狙った鉄塊の一撃は、見えざる因果の鎖に絡め取られ……結果、『先の一撃の余波で断線したビルのケーブルが、獣の眼前に落ちかかってくる』という形で妨害された。咄嗟に硬直する獣。だが、直前で急停止し勢いが殺されたものの、鉄塊はおれの左肩に重く食い込んでいた。
「くっは……!!」
 おれの視界が急速に横に流れ、大音声と共に急停止。三メートルほど横に吹っ飛ばされてビルの壁面に叩き付けられたのだ、と二拍ほどして認識する。
 仕方がない。ファリスへの流れ弾を防ぐためには『鍵』の対象を二人にせねばならす、その場合、必要なコストは加算ではなく乗算になる。負荷を削減するために、『当たってしまう』こと自体は受け入れざるを得なかったのだ。ダメージ検証――右の肩甲骨にヒビ。腕の筋肉に一部断裂、アバラに衝撃、防刃防弾下着(インナー)越しとはいえ全身に打撲。内臓まわりは後でチェック。――暫定結果、防具を付けた状態で二階の窓から突き落とされた程度。充分活動可能だ。アドレナリンを分泌させて痛覚を遮断し、身を起こす。
 挙動を崩されたのもつかの間、即座に皇女につかみかからんとする獣。だがそこに、極端に身を沈め、影から滑り込むように真凛が追いすがっていた。
「ジィィッ!!」
 獣が反応し、咄嗟に跳躍する。正しい判断だろう。アキレス腱をつかんで引きちぎろうとした指先が空を切る。そのまま真凛は前転して身を起こし、おれの代わりに皇女の護りとなる。跳躍した獣はそのまま、雑居ビルの壁を蹴り、合間を駆け上がってゆく。そして――
「また来るぞ!」
「わかってる!」
 十分な位置エネルギーを稼いだ時点で獣は身体を反転させ、一転して下方、つまりおれ達に向かって壁を蹴った。今度の狙いは――真凛!
「っ……!」
 真凛と皇女が咄嗟に飛び退る。再び弾丸と化した獣が、アスファルトに鉄塊を炸裂させたのはその直後だった。獣が唸り声を上げる。追撃はなかった。
「ちぇ、さっきより速いや。合わせそこねちゃったよ」
 真凛が五指を屈伸させてぼやく。攻撃を避けざまに眼球を狙い貫き手を放っていたが、またも獣の反射神経にかわされたのだ。睨み合う両者。
 初手の見せ合いが終わり、互いの力量が知れたところでわずかに膠着状態が訪れる。周囲を満たし始めた黒い靄に不吉な予感を抱きつつも、そこでおれ達はようやく相手を観察・分析することができた。こいつが敵であり、さっき喋ったルーナライナ語から、皇女を取り戻すための刺客だという事までは明白だ。問題はその能力。
「……棍、かな?」
 真凛が敵の持つ異形の鉄棒を見て呟く。
「――いいや、ありゃあ杵(きね)、だな」
「杵!?って、あのお餅つく奴?」
 真凛が驚くのも無理はない。だいたいの人間にとって、杵というものは道具であって、武器ではない。こんなものを使う連中と言えば。
「ああ。だがハンマーみたいな”横杵”じゃなくて、竪(たて)杵……逆手に構えて重さで突き潰す方が得意な奴だ」
 さっきアスファルトを叩き潰したのもそれだろう。真凛の言葉に応えていくうちに、おれの頭の中で検索結果が急速に絞り込まれていった。
『小娘が格闘使い、男は添え物――なるほど、事前情報の通りだな』
『添え物で悪かったな』
 まあ否定はしないが。ルーナライナ語でお返事してやると、会話が出来ることに驚いたのか、黒い靄を顎から垂れ流しながら獣は言葉を続けた。
『貴様等も運がない。よりによってこの俺を相手にするとはな』
『はっ、獣のくせに随分器用にさえずるじゃないか』
 前に戦った竜人は変身するとまともに喋れなかったもんだが。と、獣が喉をぐつぐつと震わせた。嗤っているらしい。
『獣、か。なるほど貴様らにはそう見えるかも知れぬな。愚かな奴め、俺が何者かもわからぬまま、臓腑を裂かれて死ぬがいい』
『ははん。さてはお前、頭悪いだろ?脅し文句に独創性がない』
 先ほどチンピラ相手に独創性のない文句を吐いた事実を棚に上げつつ、おれは内心舌打ちした。コイツは殺意を明示した。つまりはまっとうな『派遣社員』ではなく、業界の仁義を守るつもりもなければ必要もないということだ。
『けどまあ、アンタの正体、心当たりがないわけでもないぜ?』
『ほう。小僧、俺様を知っているとでも?』
『そうさな、おれが知ってるのは――かつて中央アジアのある部族が、雪渓に埋もれた寺院に封じられし邪法を解き放ち、獣の力を我が物とした――なんて伝説だけど』
『……ふん……』
 獣の気配が変わる。どうやらおれを”添え物”扱いするのはやめたらしい。
『当たりか。ま、簡単なクイズだったな。銀色の毛皮に黒の斑点、鉄の杵をかまえて陰風を纏う”妖怪変化”、といえばヒントがありすぎなくらいだぜ』
 獣の口の端が急角度に歪む。
『ならば言ってみるがいい、……我が真名をな』
『その昔、ありがたいお経を取りに天竺に旅立った坊さんを喰らおうとした魔物の末裔。花皮豹子精(ユキヒョウのあやかし)――またの名を『南山大王』!』
 ナンザンダイオウ、の日本語を知っていたのだろう、獣は嗤った。禍々しい歯列がむき出しになる。
『気に入ったぞ小僧!男の肉は好かぬが、貴様の脳随は啜りがいがありそうだ!』
 再び弾ける筋肉のバネ。夜闇を裂いて鉄杵を唸らせ、『南山大王』は跳躍した。
「ふん、生憎おれの役割はどっちかっていうと念仏唱える方でね――荒事は任すぜ孫行者!」
「なんだかよくわかんないけど任された!」
 そこはがってんお師匠様とか言って欲しかったがまあいい。割って入った真凛が鉄杵を潜り込みつつ掴みかかり、接近戦を挑む。獣は己の爪牙を振り回しつつ、鉄杵の有利な間合いを取ろうとする。剣呑な技巧と獰猛な黒靄が混じり合い、一挙手一投足の間合いでの乱戦となった。

「大丈夫か?」
 もつれる両者から距離を取り、皇女の元へ。おれが獣相手に正体当てクイズをやっていたのは、別に自分の知識自慢のためではない。真凛が皇女を安全圏に退避させるまでの時間稼ぎである。
「亘理さん、肩が……!」
「ああうん、まあ軽い打ち身ってとこ」
「嘘です、あの音なら骨にヒビが入っているはずです!」
「だいじょぶだいじょぶ、割とまれによくあることだから」
 皇女の気遣わしげな視線。どうも扱いに困るなぁ。ケラケラ笑って手を振り、話題を転換する。
「で、今の襲いかかってきた獣に心当たりは?」
「たぶん……ビトール大佐です。叔父の右腕を務めていて、豹の魔物に変じる力を持つなどという噂がありましたが、まさか」
 本当に豹に化けるとは思っていなかったのだろう。それが普通の世界の常識というものだ。
「んじゃ、厄介者の相手は真凛に任せて、おれ達はとっととずらかろうか」
「そ、それは真凛さんがあまりにも危険では!」
「へーきへーき。君も見たろ?アイツのえっげつない暴力をさー」
 蹴られた顔面をさすってみせる。
「しかしビトール大佐のあの姿は、もはや人間ですら……!」
「大丈夫。アイツはああいった手合いとはもう何度とやってるしね。それに」
 ま、そろそろアシスタント業務も長いしな。
「任せられるから任せる。――そういうことさ」
「信頼、してるんですね」
「と、とにかく!ここから離れるぜ、……ってなんだこりゃあ?」
「黒い……壁!?」
 皇女を連れてビルの谷間から抜け出そうとしたおれ達は、黒いガス状のものがわだかまり、出口を塞いでいることに気がついた。
「あの黒い靄か……!」
 己の迂闊さにまた舌打ちする。確かに陽は落ち、もう夜と言ってもいい時間だ。だが外から届くはずのネオンや街灯の明かりが一切遮断されていたことに気がつくべきだった。辺りを見回す。イヤな予感は的中。いつの間にか周囲一帯が黒い靄に閉ざされていた。
「これが、ビトール大佐の力なのでしょうか?」
「だろうな、奴さんの撒き散らしていた黒い靄、ただの虚仮威しってわけじゃないらしい」
 試しに手をかざすと、不吉な寒気が腕に走り思わず引っ込めた。分類するなら『妖術』のくくりだろう。精神的な嫌悪感を催す人払いの結界。恐らくこの黒い靄の中で何が起ころうと、外の人間には感知されない。表通りを歩く人間が悪臭漂う路地裏や薄暗い物陰に視線を向けるのを避けるように、この場で起こる事を無意識に忌避し、忘れようとする力が働くのだ。人に仇なす『妖怪変化』が力を振るう際、しばしばこういった結界を用いることを、おれは経験として知っていた。
「気合い入れて突っ切りゃいいだけの話なんだけどな……!」
 額に脂汗が浮かぶ。理屈ではそう判っていても、ヘドロの海に顔を埋めるような強烈な嫌悪感が行動を阻む。ファリスを見れば、こちらも顔を青くし身を竦ませている。
「作戦変更だな、こりゃ」
 二人揃って突破できる目は薄いと判断せざるを得ない。
「こうなったらそいつを一気に片付けて脱出するぞ――って、おい!?」
 皇女を連れて引き返したおれ達の前には、意外な光景が広がっていた。
カテゴリー:_小説7話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年11月29日 (日)13時22分