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人災派遣のフレイムアップ 第7話 『壱番街サーベイヤー』 16-a

 留学生向けの寮を出たおれ達は、管理人さんに礼を言って鍵を返し、香雪達に電話で報告した。ようやく日が落ちたばかりだというのに、既に連中は出来上がっており、すでにおれに鍵を預けたことなど記憶の彼方に埋もれてしまっているらしい。友人達の防犯意識を不安に思いつつも、おれはファリスとともに相盟大学を後にした。キャンバスを離れ、事務所へ向けて歩く。ものの十五分も歩けばたどり着く――はずだったのだが。
「ねぇ、マジ?マジだろこれ、マジヤバイよな?」
 大通りを折れ、事務所に向かう細い道路に入り込んだ時だった。
「へぇマジかよ、銀髪なんてホントにいるんだな」
「ヤベー!マジだわコレ」
 おれ達の行く手を、八人ほどの男が塞いでいた。通路の両端に座り込みこちらにじろじろと無遠慮な視線を向けていたのだが、おれ達が通り過ぎようとするとにわかに立ち上がり、なれなれしい様子で近づいてきたのだった。タバコ臭い息を吐き散らし、先頭の一人が話しかけてくる。
「あ、あの、貴方たち……は?」
「うおーマジ?日本語わかんの?やっべオレお友達になっちゃう?なっちゃう?」
 下品な笑い声。いずれも二十代かそこら。染めた髪。異性の目を意識しているくせに、細部までは行き届いていないだらしのない服装。相盟大学の学生かとも思えたが、その顔に浮かんだにやにやとした笑み、そしてこちらに向けられる明確な悪意が、連中を典型的なチンピラの類いであるとはっきり示していた。その一人、タバコ臭い息の男が無遠慮に近寄ってくる。
「なあ姉ちゃん、日本はじめて?おれ達が色々案内してやるよ」
 台詞にまでコピペめいて独創性がない。連中の視線がおれとファリスどちらに向いているかを確認――悲しいかな、おれも恨みを買う相手にも理由にも不足しないのだ――し、視界の端で後背を捉えると、そこにもすでにチンピラ達が立ちふさがっていた。明らかな待ち伏せ。こちらがここを通ることを確信していなければ出来ない行動だ。合計十三人。おれはため息をひとつ、肩にかけていたザックを下ろす。
「まあ貴方たちにもヤベーくらい魅力的な女性に一声かける権利くらいはマジ認めて差し上げても構いませんが。マジ世界情勢と政治についてヤベー視点と二時間くらいは語れる知識はお持ちでしょうか?マジ僭越ながら現時点ではヤベーほど準備不足ではないかとマジ推察いたしますが」
「ア?何わけわかんねぇ事言ってんだよガキ。すっこんでろや」
 そういや二十代ってことは、こいつら一応年上になるんだよな。年長者には敬意を払いましょう――年月が知恵と人格に正しく蓄積されているならば。おれはすみやかに態度と二人称と切り替えることにした。
「すまんな。会話のレベルをお前達に合わせてやるべきだった。わかりやすく言うとこうだ。――今すぐ舌を噛んで死ね。そして生まれ変わって神様に顔面と脳ミソを作り直してもらってから出直してこい」
「喧嘩売ってんのかテメ――ぶっ!?」
 歯をむき出しにして威嚇するチンピラの顔面にザックを叩き付け、
「当たり前だ。それともいちいち確認しなければ理解できんほど残念なのか?」
 渾身の自己流右ストレートをたたき込んだ。真凛あたりなら「腰がぜんぜん入ってない」と評しただろうが、素人の喧嘩ならこんなものである。ザックを緩衝材代わりにしたのは、歯や鼻骨を殴って拳を傷めないためである。
「わた……あのっ!」
 おれの名前を叫ぼうとして思いとどまるファリス。大変賢くてよろしい。
「逃げるぞ!」
 先頭のチンピラがよろよろと後ろの仲間にもたれた。それによって崩れた包囲網の隙間に身体を割り込ませ、皇女の腕を強く引き寄せる。予期していたのだろう、ファリスは逆らわずにおれに身体を預けてきた。受け止めると同時にすばやく反転し、皇女の背中を通りの奥に押し出す。
「大通りまでまっすぐ走れ!」
「はい!」
 視線を一度だけ交わしたあと、躊躇せずに走り出す。聡明な娘だ。ここで変におれを心配して立ち止まったりしては、却って双方に危険が増す事を弁えている。
「ンだテメェなに邪魔くれて……ぶげあ!!」
 後続、長髪にピアスのチンピラがつぶれた蛙のような悲鳴を上げ、突如雷に撃たれた様にひっくり返る。いや、比喩ではなく雷に撃たれたのだ。違法改造携帯電話『アル話ルド君』裏機能の一つ、電針銃(テーザ―)モードである。過剰にコンデンサの電圧を高め、ガス圧でワイヤー付きの仕込み針を発射し電流を流し込む射撃型スタンガン。もちろんよい子が街中で持ち歩いて良い品物では決してない。
「てっめ……」
「死にたくなけりゃ近寄るんじゃねえぞ!!」
 おれは大声を張り上げ、チンピラ共に電針銃に変形させた携帯をつきつけた。自慢じゃないが喧嘩の腕はからっきしである。しかし喧嘩というものはレベルが低ければ低いほど、戦闘の技術よりも威嚇が重要になる。要は猿山の縄張り争いだ。そしてこれも自慢じゃないが、ハッタリには自信がある。何しろこの電針銃、弾数は一発のみだったりするのだ。大音声と威嚇に、相手が歩を止めたその一瞬に合わせ、おれも踵を返し通路の奥へと駆けだしていた。
「逃がすな!捕まえろ!!」
 背後から刺さる怒声を無視して、おれは走った。
 だが奥に向けてしばらく走ると、先に行ったはずのファリスが棒立ちで佇んでいた。
「何やって……」
 文句を言いかけて気づいた。大通りに通じる細い通の突き当たりに、ねじ込まれるように趣味の悪いワンボックス車が停車していたのだ。もちろん進入禁止である。あのチンピラどもの移動手段、兼即席の壁ということか。舌打ちを一つ。なかなか知恵が回るじゃないか。
「こっちだ!」
 ファリスの手を引いて左に折れる。背後からは「曲がったぞ!」だの「左だ!」だの声。おれ達は右に左に道を折れ、雑居ビルの裏へとまわった。ビルの通用口の前では、休憩中なのだろうか、くたびれたサラリーマンが数人、タバコをふかしているのが目に入った。ここを抜ければ大通りに抜けられる。日ごろの運動不足で上がりつつある息を抑えつけ、ファリスの手を引き走る――だが。
「亘理さん!」
「っと!」
 ファリスの悲鳴。反射的にザックを振るったのはおれの反射神経から考えれば上出来だった。舌打ちが聞こえた。見れば、さっきまでタバコをふかしていたはずのサラリーマンが、唐突にファリスに向けて腕を伸ばしてきていたのだった。ザックを叩き付けられた腕を引っ込め、おれをにらみつける。
「クソが……、大人しくしやがれよ」
 その焦燥感に駆られた濁った眼を見て、おれはだいたいの事情を理解した。
「『アーバンジョブネットワーク』」
「な……」
 男達の動きが止まった。図星か。
「どうせギャンブルで借金こさえて、ろくでもないバイトに手ぇ出したってとこだろ。アンタらの身元、メアドと住所くらいならすぐわかるぜ?」
「ま、待て……」
 男達はあきらかに狼狽したようだった。
「動画つきでネットにさらしてやってもいいんだぜ。クビになった上に前科がついちゃあ借金返せても割に合わんと思う――がねっ!!」
 口からなめらかに脅迫を垂れ流しつつヤクザ・キック。ダメージは最初から期待していない。腰が退けた相手を押しのけて突破口を開き、おれ達はさらに通路の奥へと身を躍らせた。遠ざかる男達の罵声を背にひた走る。

 
『ふん、ネズミも逃げ回るとなれば小知恵を効かすものらしい』
 とある雑居ビルの屋上から、それらの騒動を見下ろす無国籍な風貌の大男が一人。手すりに凭れ、軍用の双眼鏡を覗き込みながら独りごちる。手すりには持ち物なのだろうか、杖……と言うには太く長過ぎる、異形の鉄棒が立てかけてあった。軍から支給されたレーションを噛みちぎり、舌打ちを一つ。
『それにしても日本人はなぜこうも惰弱なのか?どいつもこいつも栄養の行き届いた体格をしていながら、ルーナライナの物盗りのガキより足が遅い』
 日本の晩秋、すでに冬の気配を漂わせており日は短い。すでに夕陽は高層ビルの隙間に半ば以上を沈めつつあった。それに抗うように家々の窓やネオンの看板が灯りだし、狭い通路の様子はそのコントラストの中に急速に埋もれてゆく。だが大男……ルーナライナ軍大佐ビトールの瞳は、宵闇の中を逃げ回る第三皇女の姿を見失うことはなかった。
『何をしている?』
 背後から英語での問い。驚きはなかった。
『『朝天吼』か』
「ほう、足りない脳でも俺の名前くらいは覚えていたか」
 振り返れば、仏頂面の少年……劉颯真がそこにいた。接近そのものにはとうに気づいていた。いかに気配を隠して近づこうとも、彼の体毛は空気の震えを捉える。もっともこの傲岸な少年にとって、隠れて近づくなどという考え自体が選択肢として存在しないようだが。
『ここは俺の作戦領域だ。貴様等が今さらその青いクチバシを突っ込む隙間はないぞ』
「なぜ勝手に動いた?しばらくは皇女を泳がせることで合意したはずだ」
 颯真の声が低く沈む。その声は激昂する少年のものではなく、己の領を犯した者へ罰を下す王のそれであったが、ビトールは鼻を一つ鳴らしたのみだった。
「閣下のご命令があったのだ。物事は迅速に為せ、とな」
 颯真の眉が急角度に跳ね上がる。
「ワンシム様はお忙しい方だ。貴様等の効率の悪いやり方につきあう必要などない。女など攫ってきて尋問で必要な事を吐かせればそれでよい」
『尋問?拷問の間違いではないでしょうか』
 少年の傍らに影のように従う女、『双睛』が言う。その魅惑的な肢体を眺めやり、小さく舌なめずりをする
『馬鹿を言うな。ルーナライナの軍人が民間人を傷つけるような恥ずべき真似をするものか』
『逮捕した市民を砂漠で一昼夜連れ回すのがお好きと聞いたのですけれど』
 ビトールの目尻が歪む。――おぞましい悦楽の記憶に。
『俺は慈悲深い男でな。怠けがちな市民の運動不足解消につきあってやっているのだ。健康のために裸足で砂漠の上を一日歩く。すると皆、なぜか俺に感謝して色々と喋りたくなる。人徳というものだな』
『熱砂の上を歩かせられればそうでしょうね。特に足の爪を剥がされた状態であれば』
『ふん、随分と些事を調べ上げているようだな?』
『くだらん問答はいい。今すぐ駆りだした雑魚共をまとめてここを去れ。そうすれば合意を反故にしたことは不問にしてやる』
『ハ!寝言を抜かすなよ小僧。取り違えるな、俺達がお前を雇っているのだ。俺達が予定を変更すれば、お前達がそれに合わせる。当然だろう?」
『ほう。――要求を呑む気はないということだな?』
 颯真が右足を一歩踏み出す。コンクリの屋上が、みしりと軋んだ。
『当たり前だろう。それから小僧。最初から目に余っていたが、貴様、雇用主に対する態度にだいぶ問題があるなア?』
 ビトールが向き直る。両腕を大きく開き、その唇から歯茎がむき出しになった。
『――お楽しみをお邪魔してすみませんが』
 激発寸前の空気は、狙い澄ましたタイミングで差し込まれた美玲の声で霧散した。屋上から路地裏を見下ろす彼女の瞳は、都会のネオン光を反射し、幽玄な淡い光を放っている。
『状況に動きがあったようですよ』
カテゴリー:_小説7話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年11月11日 (水)20時03分