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人災派遣のフレイムアップ 第7話 『壱番街サーベイヤー』 15

「ここが留学生向けの部屋ですか……」
 物珍しげに部屋を見回すファリス。留学生向けの寮は二人相部屋となっており、八畳の部屋の両側にベッドと机が据え付けられていた。右側は香雪のものらしく、壁は某アイドルの特大ポスターで覆われ、机とベッドにはCDや本、紙袋やバッグ各種が雑然と積み上げられている。かたや対面のナターシャの机は整然と片付けられ、本棚には見ただけで陰鬱になりそうなロシアの分厚いブンガクショがずらりと鎮座ましましていた。
『んじゃアタシ達はみんなで池袋に飲みに行ってくるからサ。その間この部屋をゆっくり下見してってよファリスちゃん」
『急な話ですみません、香雪さん』
『いいっていいってー。アタシもナターシャが抜けた後次に入ってくるのがファリスちゃんだったら嬉しいしね。あっ、陽司は三和土から一歩でも上がったらコロすからね』
『ふふん、おれは用もないのに女性の私室に上がり込むほど不埒ではないぜ?』
『へぇー、じゃあ用があれば上がり込むんだ』
『ま、長居はしないがね』
『それでは亘理さん、終わったら鍵は管理人さんに電話して預かってもらってくださいな』
『おー、ありがとさん』
 ナターシャ達にお礼を言って送り出す。他人が自室へ出入りすることへの気楽さは、さすが毎晩部屋飲みをやっている寮生といったところか。ちなみに直樹あたりは例え姉の来音さんであろうと部屋に寸毫たりとも立ち入ることを絶対に許さないらしい。
 扉が閉まると、ファリスは玄関を上がり、部屋の中を確認する。
「机とかベッドは、新しいものみたいですね」
 その様子は、どことなく落ち着かないように見えた。
「残っているわけ、ないですよね……」
 無意識の呟きには、かすかな失望と、安堵が含まれていた。そこに、おれは一つ言葉を放り込んだ。
「――『鍵』の手がかりは、ここにはなさそうだね」
「えっ……」
 反応を観察する。その一瞬、瞠(みは)られた彼女の紫の瞳に走った驚きは、『何を訳のわからないことを言っているのか』ではなく、『なぜ知っているのか』だった。
「ああ、やっぱりそうなのか」
「亘理さん、貴方は……」
「ごめん、カマをかけるような真似をしちゃってさ」
 おれは一つため息をつくと、玄関の横に据え付けられた鏡を見た。映り込んだ、誰とも知れぬ他人の顔。
「いくらセゼル大帝の遺言だとしたって”日本にある”なんて曖昧すぎる話だけじゃ君だって動けるはずがない。情報はないにしても、多少の目星くらいはつけていたんじゃないか、ってね。……この部屋に手がかりがあると思ったんだろう?」
 しかし、ここに至ってそんな手がかりを彼女がおれ達に隠すメリットはない。となれば、考えられる今の彼女の心情は。
「な、何を言っているんですか、ここに来たのは、ただの部屋の下見ですよ?」
 その手がかりが、当たりであって欲しくない――とか。
 
「アルセス・ビィ・カラーティ」
 
 その単語に、ファリスはまるで雷に打たれたように身を震わせた。
「なぜ、その、名前を」
「……おれなりに『鍵』のヒントを探ろうと思ってさ。実は今回の依頼を受けてから、片っ端からルーナライナと日本をつなぐ記事を検索してたんだ」
 そう言っておれは自分のこめかみを小突く。
「検索……新聞記事が頭に入ってるとでも?」
「ここ数年分の日経とニューヨークタイムズだけだけどね。あとは近所の図書館の書庫で一ヶ月かけて流し読みさせてもらったトピックスをプラス十年ほど」
 おれの言葉をタチの悪い冗談と受け取ったのだろう、ファリスは怒りよりもむしろ、悲しげな瞳でおれを見つめた。その憂えるアメジストにおれは一秒で降参。くだらない特技自慢はやめにして話を進めることにする。
「まあ、日本とルーナライナの繋がりといえば、技術交流と留学くらいしかない。『鍵』に繋がりそうな情報は思い出せなかった。……『相盟大学』というキーワードが手に入るまでは。過去にルーナライナから相盟大学に留学した人物は一人しか居ない」
 唯一の留学生。つまりは、この部屋のかつての主。
「アルセス・ビィ・カラーティ。相盟大学理工学部への留学生にして、大帝セゼルの曾孫。君にとっては、お互いの父親が従兄弟同士。いわゆる、”はとこ”だね」
 だが、アルセス氏をただのいち留学生と呼ぶには、いささか無理があった。
「存在に気づけば、彼と『鍵』の関係を結びつけるのは難しくない。何しろ彼は、」
「――”ルーナライナの売国奴”、でしょう?」
「……ファリス?」
 涼しげな声。美しい発音には何も変わりはないのに、それはまるで新月の砂漠のように、どこまでも乾き澄み渡った虚ろな闇を思わせ、おれの背筋をかすかに震わせた。
 
 血を絶やさぬ事が義務とされ、十代で子供を設けることが当たり前とされるルーナライナ王家にあっては、大祖父と成人した曾孫が同じ時代に存在することも決して珍しくない。アルセスは第二王子の血筋で、当時の王位継承権は十位以内。孫や曾孫達の中でも抜きんでて聰明であり、セゼルの後継者として最も期待されていた王子だったという。
「今でこそ第三皇女、なんて肩書きですけど」
 どこか他人事のようにファリスは呟いた。
「元々私は、領地も持たない傍流の王族。それに正妻の子でもありませんでしたから、子供の頃は、王宮で他のはとこ達の小間使いみたいな仕事をしていました」
「……なんか本当に、ファンタジー世界の話を聞いている気になるよ」
「でも、そんな中でもアルセス王子は、私や他の子達にも、分け隔てなく接してくれる人でした。私も物心つく前から、しょっちゅう彼の後をついて回っていたそうです」
「だけど。アルセス王子は、日本への留学が決まったんだよな?」
「はい。その頃は既に、アルセス王子はセゼル大帝の右腕となるべく、国の仕事を幾つも担うようになっていました。そして、その仕事の一環として日本へ留学することとなりました」
 モラトリアム延長のために『語学の勉強』と称して海外に留学するようなおれの友人どもとは異なり、開発途上の国から国費で留学してくる学生は、政治や経済のシステム、技術を学び、あるいは人脈を構築し、国に還元するという使命がある。アルセスもおそらくは、日本の技術を学び、あるいは将来のジャーナリストや政治家、起業家の卵達と交流をするという目的があったのだろう。だが。
「そこでアルセス王子は……彼は、とある日本の企業と接触を持ちました。ルーナライナの、金脈の情報を、渡そうとしたのです」
「ファリス?」
 最初に感じた、新聞記事を読み上げるような口調。失われていく抑揚。
「ルーナライナの金脈の情報を漏らす。当然それは、セゼル大帝が敷いた鉄の掟に違反するものでした。発覚した後、アルセス王子は直ちに拘束。国元に召還され裁判を受ける身となりました」
「ファリス、」
「当時、もっとも信を置いていた皇族の裏切りは、セゼル大帝を激怒させるに十分たるものでした。結果、アルセス王子はルーナライナの国益を大きく損ねた売国奴として、見せしめを兼ねて、他の皇族立ち会いのもと、郊外の砂漠にて斬首の刑に――」
「ファリス、もういい!」
 彼女の肩を強く揺さぶる。淡々と流れていた言葉は、スイッチを落としたように止まった。
「すまん、おれの考えが足りなかった」
 他の皇族の立ち会いもと斬首。彼女はそう言った。つまり。おそらく、彼女は――自分が子供の頃大好きだった人の、首が切り落とされる光景を目の当たりにしたのだ。
「無理をするな、今日はいったん引き上げよう」
「いいえ、大丈夫です……」
 皇女は力なく笑った。
「亘理さん、こう考えていたんでしょう?セゼル大帝の隠した金脈とは、アセルス王子が売り渡そうとしていた金脈のことじゃないか、って」
 おれは頷いた。そもそも徹底して金脈の情報を管理し、『漏らしたら死刑』を実践までしたセゼル大帝が、金脈の情報をわざわざ日本に隠す理由などないし、ましてや意地の悪い宝探しゲームを仕掛ける理由は全くない。だが、『信頼できる親族に、後継者として預けた』のであればどうだろうか。『アルセス王子だけが知る大金脈の情報』があれば、彼が後に王位を継承する時に当然発生するであろう、他の親族との権力争いに強力な武器となったはずなのである。そしてそれを他国に売り渡そうとしたのであれば……セゼルにとっては、二重に許せない裏切り行為だっただろう。
「当時、アルセス王子が接触していた企業が、その後金の採掘に着手したという事実はない。とすれば、アセルス王子が持ち出した金脈の情報は、セゼルの元に回収されたか――あるいは、行方不明になった」
 だからこそ『見つけることができれば、金脈の情報がわかる』という形になった。そう考えれば、辻褄は合う。だからこそ、アセルス王子の滞在した部屋に、何かの手がかりがあるだろうと踏んだのだが。
「そう、ですよね。アセルス王子の盗み出した情報。やっぱり、それしか考えられませんよね」
 皇女は深く息をついた。
「滑稽な話ですよね、国を救うため『鍵』を手に入れたいなんて言って、その手がかりも持っていながら、……こうして実際に日本に来るまで、その事実になるべく目を向けないようにしていたのですから」
「本当に目を向けようとしていなかったのなら、そもそもこの部屋を見てみよう、なんて気にはならなかったんじゃないかな」
「え?」
「ひとつ疑問があるんだ。アセルス王子は、なぜリスクを冒してまで、日本の企業に情報を売り渡そうとしたんだい?」
「それは……採掘を進めるにあたって、日本の企業の力を借りようとしたのでは」
「確かに、そうとも思えるけどねぇ」
 おれは首を傾げた。
「まあいいや。とにかく、留学生だったアセルス王子が何か大事なものを隠せた場所は、決して多くはないはずだ。自分の部屋、心を許せた友人、研究室。この三つに絞って進めてみよう」
「……はい。でもやっぱり、この部屋にはアセルス王子が使っていた頃の私物は残っていないようです」
「そりゃあそうだな。でも手がないわけじゃない」
 おれは軽薄に言うと、『アル話ルド君』を取り出し、先ほど聞いた番号にコール。
「あ、どうも管理人さんですか。――ええ、鍵を返す前にちょっと教えて欲しいんですが。留学生が寮を出る時、いらなくなった荷物はどう処分するんですか?――ええ。ええ。いや実は十年近く前に、ルーナライナの留学生が荷物を残したまま国元に急遽帰らなくてはならなくなった事がありまして。たまたま親戚の子が来日してその行方を――引き取った?――ええ。ええ。――わかりました、ええ。ありがとうございます」
「荷物は捨てられていなかったのですか!?」
 おれが通話を切ると同時に、視界に切羽詰まった皇女の顔が飛び込んできて、思わずのけぞってしまった。
「あ、ああ。アセルス王子の私物は、彼が所属していた研究室の人たちが、資料や書籍と一緒に引き取ったらしい。急に国元に帰って、戻ってくることもなかったなんて事態は珍しいんで、管理人さんもはっきり覚えていたみたいだよ」
「では、そこに行けば、何か手がかりが……」
「あるかも知れないな。とりあえず理工学部の教授どもには、アポを取っておくとするよ」
 昔ちょっとした雑用を片付けた事があり、多少の顔は利くのである。
「今日はさすがに無理だろうが、明日、日を改めて出向くとしよう」
「亘理さん、……ありがとうございます」
 喜びと、だがそれ以上に不安を抱えた紫の瞳。おれはそんな皇女の肩を軽く叩いた。
「まあなんだ。あれこれ悩むのは、まずフタを開けてからにしようぜ」
 彼女は小さく頷いた。
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|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年11月01日 (日)23時33分