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人災派遣のフレイムアップ 第1話 『副都心スニーカー』 5

「お探ししましたよ。景品をご用意したのにすぐ立ち去ってしまわれたのですもの」
 カウンターに佇んでいたのは、このアミューズメントパークの係員の制服をまとった女性である。ありていに言えば、素晴らしい美女であった。黒髪をいわゆるポニーテールにまとめているのだが、むしろ、結っているという表現がどこかしっくり来る。スタイルは西洋八頭身なのだが、和服が意外と似合うんで無いかなーと脳裏でつい想像してしまう程に、清《すが》しい雰囲気を漂わせていた。歳の頃は二十五にわずかに届かないところだろうか。世間知らずの大学の先輩方とは違う、大人の色気に当方メロメロでございます。いてっ。脇腹をどつくな。
「あのパンチングマシーンは、時々プロの格闘技選手の方も遊んでいかれるのですよ」
「いやー、久しぶりにちょっとこう昔マスターしたカラテの突きでも出してみちゃったらいい数字が出てしまいましてねえ」
 まさか隣に座ってるこのお子様がどつきました、とは言い難いので無難にまとめる。お姉さんはまあ、格闘技をやってらっしゃるんですか、と問う。生憎そんなもん真面目に習ったことは無い。
「ま、機械が故障でもしてたんじゃないっすかね」
「そ、そうそうそうですよ」
 お姉さんは、そうかもしれませんね、でも記録は記録ですし、と言うと数枚のチケットをくれた。どうやらこれを使えばアミューズメントパークのゲーム、ドリンクが無料になるというものらしい。おれはさっそくその場でチケットを切って、今度はアイスコーヒーを三人分頼むことにした。
「三人分、ですか?」
「ええ、おれとこいつと、貴方の分」
 本当はこいつと、のくだりを外して二人分にしたかったのだが後がコワイ。営業スマイルで丁重にごまかされるかと思ったが、お姉さんは驚いたものの、すぐにくすくすと笑うと、カウンターの奥からアイスコーヒーを三人分用意してくれた。仕事と割り切ればシャイなおれでも割とこういうセリフを吐けるというものである。なお、横から「普段はもっとしょうもないこと言ってるじゃない」という声があがったが無視することにした。
「いやあ、今日は退屈してる弟の引率でやってきたんですよ。会社のビルの中にある、っていうから小さいゲームセンターみたいなものを想像してたんですが」
「誰が弟だ!」
 お姉さんは声を上げた真凛ににっこりと微笑む。
「高校生ですか。可愛い妹さんですね」
 ああ。そういえば今日は制服着ていたっけな。
「今日は楽しんでいただけてますか?」
「ええ、まあ最新のゲームになるとちょっとついていけないところもありますが」
「もういい歳だもんねえ」
「……おまえ、そんなセリフ路上で吐くと世の二十三十四十代から呪われるよ?」
 ちなみにおれはまだ花の十代である。
「あんたの精神的な年齢ってことだよ。こないだもみんなが出かけているときに一人残ってスーパー銭湯でマッサージしてもらってたじゃない」
「あ、あれはいいだろ。風呂上りのマッサージは神が定めたもうた人生の娯楽ですよ?」
 おねえさんは口に拳を当てて笑うのを堪えて、仲のよいご兄妹なんですね、と言った。ええまあ、仲がいいかはともかくどうにかやっとりますよと返すと、真凛も不承不承頷く。視線がアトデオボエテロヨと語っていたが、放置することにした。
「こんなでっかいビルを建てる辺りはさすがザラス、ということですかね」
「それはもう、ちょっとここは他のビルとは違いますからね」
 言うとお姉さんはアイスコーヒーにお代わりを注いでくれた。サービスと言うことらしい。
「って言いますと?」
 真凛が問う。
「このザラス日本法人本社ビルは、いわばアメリカから日本へ進出するための前線基地ですからね。中世においては城には威容と堅牢さが求められる。それを現代建築に再現すると、こうなるのかもしれませんね」
「……へえ」
 おれは唸った。彼女の名札を思わずみやる。
「門宮《かどみや》といいます。このフロアのマネージャーを務めております」
 ほう、とおれは呆ける。
「あ、どうも。おれは亘理といいます。こいつは弟の」
「だから弟じゃない!なな……ごほん、真凛といいます」
 殺気が首のあたりをよぎったが、とりあえず黙殺。
「失礼ですがその若さでマネージャーというのは」
 おれも歳の割にはずいぶん如才ないと言われるほうだが、所詮は学生。ビジネスの前線で活躍するホンモノの前では頭を下げるしかない。
「外資のいいところですよ。チャンスは平等、つかめる者が先に行ける。日本の企業ではなかなかこうはいきませんものね」
 ……なるほど、仕事が出来る女性《ヒト》、と思って間違いないようだ。
「このビルが完成したのはつい最近だったと聞いていましたが」
「ええ。実を言うと私もここに配属になったのはつい最近のことなんですよ」
 ふふふふ、と意味ありげな微笑を返す門宮さん。その笑顔におれも思わずふふふふー、と気持ち悪く顔を緩めそうになったが、足の甲を踏み抜かれた痛みで我に返った。
「私も学生の頃、この辺りを通ったことがあるのですけど、当時は何もない更地だったんですよ」
 門宮さんは言う。
「土地はあったんですけど、不景気でなかなか買い手がつかなくて。当時は閉鎖された下水の処理施設と雑草くらいしかありませんでした。それがザラスによる開発がはじまって一年と少しで、気が付いたらこんなビルになってしまいまして。それにも驚きましたが、まさかそこで自分が働くとは思いもよりませんでした」
 ……ほー。下水処理施設ね。
「おれももうじき就職活動しなきゃいけない季節なんですよ。もしザラスを受けることになったらぜひ、推薦状を書いてくださいね」
「あら、推薦文はどんな内容にすればよろしいですか?」
「そうですね、パンチングマシーンの記録を更新したカラテマスターとして」
 門宮さんは好意的なニュアンスで、考えておきます、と言ってくれた。……好意的なニュアンスだった、と信じたい。その後、真凛も交えていくつかとりとめもない会話を行ったが、やがて胸元の携帯端末が一つ、小さな電子音を刻んだ。
「陽司」
「おっと。残念ですがそろそろこいつの門限みたいです。今日は楽しかったですよ。それでは」
 何か言いかける真凛をとっとと引き起こし、おれはコーヒーのグラスをカウンターへ押しやった。門宮さんは去り際のおれににっこりと微笑んだものだ。
「それは残念ですね。今度はもっとお時間のある時にいらしてください。お待ちしております」
「ええ、近いうちにお伺いすることにしますよ」
 おれもとっときの笑顔を返し、アミューズメントフロアを後にする。視界の隅で、さっきのアングロサクソンの大男がこちらを見ているような気がしたが、とりあえず気にしないことにしよう。うん、そうしよう。
 
カテゴリー:_小説1話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年09月25日 (金)00時17分