猫又公司


小説・TPRG系サークル『猫又公司』のウェブサイトです。

小説:人災派遣のフレイムアップ

人災派遣RPG

人災派遣RPG

リプレイ 『人材派遣のCCC』

CCC

ドラマCD&同人誌

プロフィール

管理人:紫電改
アイコン
小説、TRPG、サウンドノベルを中心に創作活動を行う同人サークル『猫又公司』のWebサイトです。作成した小説、TRPGリプレイ、ドラマCDなどの情報を掲載しております。
twitter@Shidenkai_79



ぴあすねっとNAVI様

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリー:スポンサー広告 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | --年--月--日 (--)--時--分

人災派遣のフレイムアップ 第1話 『副都心スニーカー』 3

 減速したライトバンが駐車スペースにすっぽりと収まる。サイドブレーキを引き上げハンドルから手を離し、おれは一息ついた。隣では助手席に座った真凛が静かに調息をはかっている。
「着いたぞ」
 キーをオフにしてシートベルトを外す。
「……ああ、怖かった」
「何が?」
 後部座席のバックを引きずり出し、車を降りる。
「アンタの運転だよ!?何アレ!?本当に免許取れたの!?」
「失礼な。ちゃんと路上で六回も念入りに試験受けたんだぞ。しかも取れ立て新鮮だ」
「うっはあ、そんなので『おれが運転するよ』なんて言うなぁー!!」
「しゃーないだろ。ここまで来るにゃあ電車じゃちときついし、おまえは免許ないんだから」
 言いつつ、おれ達はエレベーターを使って立体駐車場を抜けた。そこは空中歩道につながっており、周囲の景色を一望することが出来た。おれは手すりに組んだ腕を乗せ、街並みを一望する。
 どうにも非現実的な街である。つい先ほどまでごみごみした都内に居たから余計にそう感じるのかもしれないが、車幅の広い道路が三車線敷設されていると本当にここは日本なのか、などと思ってしまう。そしてその上に張り巡らされた空中歩道と鉄道、モノレール。海を四角く切り取ったその地形はただただ平たい。そしてその大地を早い者勝ちで奪いあったように存在するだだっぴろい駐車場と、何かの冗談のように広くてでかいビル、何に使われるのかもわからない奇妙なデザインの建造物。住む街ではなく、訪れる街。それがここ、東京の東部に広がる臨海副都心に対するおれの印象だった。
「うーん。ボクここってあんまり来たことないんだよね。涼子が時々イベントで行くとか言ってたけど」
 夏の日差しとかすかに潮を含んだ風を浴びながら、おれ達は歩道を進み始めた。
「涼子ちゃんが?歌の方で?」
「うーん。違うと思う。何かマンガを買いにいくとか言ってた」
「そりゃ多分直樹と同類かな。おれも去年の末はなにやら手伝わされたっけ」
 ちなみに涼子ちゃんというのは事務所に時々顔を出す真凛の同級生である。お嬢様なのだが裏の顔はバリバリのメロディック・メタルのボーカルで、アマチュアながら最近はちょっと有名なんだとか。普段は凄く大人しくていい子なんだがなー。
「ま、お前が行くとこっつったら新宿の裏通りだしな」
「失礼だなあ。ちゃんと渋谷に買い物とかも行ってるよ?」
「東急ハンズのプロテインとかか?」
 真凛の貫手が脇腹を抉り、おれはそのまま悶絶した。口で詰まると手を出すのは何とかならんかこの娘っ子は。そんな会話を続けながら五分も歩くと、おれ達はやがて目的のビルにたどり着くことが出来た。
 広大な駐車場の真ん中に、ニョッキリと聳え立つ四十三階建て総ガラス張りの高層ビル。ガラスに反射した西日がおれ達を容赦なく炙っている。その敷地面積は郊外に出展されるスーパーマーケットのそれを恐らく上回っていると思われた。おれ達が今いる空中歩道がそのまま二階のエントランスへ直結しており、一階にはメインエントランスの他、裏にはビル内のショップの品物用だろう、大型トラック用の資材搬入口がある。ビルの前には庭園が広がっており、遠隔制御された噴水が流体力学のアートを描きあげていた。その側には名のある芸術家が作ったのだろうか、怪しげな形状のオブジェクトが複数。オフィス機能は無論のこと、商業スペース、外食、憩の場、ホテル、アミューズメント等の機能をすべて取り込んだその姿は、もはや一企業の本社ビルというより、ひとつの庭園都市である。
 ――外資系アミューズメント総合企業『ザラス』日本法人本社ビル。
「ここに、目的のものが眠っているってことだよね」
「情報戦でヘタ打ってなきゃ、な。さてどうしたものか」
 芸術性に富んだ高層ビルを見て、堅牢な城砦の攻略法を考えなきゃいけない大学生は、今日びおれくらいのものだろう。行動開始にあたっておれは携帯端末に収めたドキュメントをチェックし、先日の任務の内容を再度思い起こした。
 
 ――所長から大雑把な概要を教わった後、すぐに一人の男性が事務所にやってきた。年齢は三十前半というところか。生真面目そうな表情で、普段は私服で仕事をしているのだろうか、いささかぎこちなさそうにスーツを着込んでいる。彼こそ誰あろう、今回のオーダーの依頼人《クライアント》、韮山公彦氏であった。
「依頼内容を再度確認させていただきます。フィギュアの、金型の奪還……ですか」
 おれは応接室で営業用の表情を作り、先ほど所長から手渡された『任務概要』をみやった。所長はすでに別の仕事があるとかで席を外しており、今おれの隣には、アシスタントとして真凛が神妙そうな顔をして座っていた。一度引き受けてしまった以上、依頼人にはアルバイトではなく、一人の派遣社員として対面し、交渉し、決断せねばならない。……まったく。学生バイトだろうがプロのエージェントだろうが一括りにしてしまう『派遣社員』という言葉の曖昧さに、時々おれは舌打ちしたくなったりもする。
 おれの確認に、ええ、と深刻な表情で頷く韮山氏。手元の概要によれば、彼は新進気鋭のソフトウェア会社『アーズテック』の開発部長であり、なんと今をときめくあの『ルーンストライカー』の開発主任でもあるのだそうな。
「ルーンはおれもやったクチですよ。ファーストエディションはそれこそ徹夜で」
 おれの言葉はリップサービスではなかった。最近では趣味が多様化したのか、『全国民が熱狂したRPG』とか、『発売前夜の行列が社会問題に』なんてレベルのゲームは生まれにくくなってきている。悪友の直樹が、時々何たら言うゲームの初回限定版を買う時に良く店頭に並ぶと言っていたが、それはむしろ供給する数量を抑制することで需要を煽る、という商法の一種に過ぎない。
 ところが、半年ほど前に発表されたこの『ルーンストライカー』、通称ルーンは、下は小学生から上はいい歳をした大人までが『ハマッた』傑作ゲームだった。その内容は、ボードゲームとカードゲームが一体化した、いわゆる対戦ゲームである。プレイヤーはルールに従ってボード上の互いの駒を動かし戦い、様々な効果が記されたカードを繰り出して勝敗を取り決めると言うのがその骨子だ。シンプルでありながら奥深いルールはコアなファンを数多く生み出し、徹夜で対戦に興じ戦略を練るプレイヤーが続出した。ネットで『ルーンストライカー 戦略』とでも検索すれば、おそらく千以上のページがヒットするだろう。近頃のゲーム業界では珍しい『空前の大ヒット』なのだ。
 そして奥深いルールと並んでもう一つ、ルーンの要をなすのが、カードに描かれた『イラスト』と、ボード上で駒として使用する『フィギュア』である。通常のボードゲームは基本的に一人が一セット買ってしまえばそれまでだが、ルーンでは別売りのカードとフィギュアを買い足していくことで、どんどん戦力を高めていくことが出来るのだ。丁寧かつ美麗なイラストが掲載されたカードと、精巧なデザインのキャラクターフィギュア。コレクター魂を大きく揺さぶるには十分だろう。ファンにとってはフィギュアとカードを数セット揃えるのは基本事項。そしてそこから派生したポスターやCDなど、様々なキャラクターグッズを集めていくのが常道だったらしい。おれはルールや戦略にしか興味がない人間なので、グッズ集めにはとんと縁がなかったのだが……。当然、ファン一人当たりが支払う金額は大きく、ルーンストライカーはいちボードゲームに留まらない経済効果を巻き起こし、現在に到る。半年ほど経過しブームは若干沈静化していたものの、先日続編である『ルーンストライカー セカンドエディション』が開発されているとの情報により、再び大きな盛り上がりを見せはじめていた。
「たしか、今週末に幕張で開催される東京ゲームフェスでプレス発表されるんですよね」
 大学の授業中に読んでいた今週のゲーム雑誌が役に立つとは思わなんだ。
「はい。『セカンドエディション』の最大の特徴は、追加ルールに併せて登場する、新たなカードとフィギュアです」
 となると、またも新たな戦略が生み出されると言うわけだ。近いうちに再び繰り返されるだろう徹夜の日々を、おれは脳裏に思い描いた。
「そのプレス発表に出展されるフィギュアの金型が……盗難にあった、と。そういうことですか」
「そうなんです……」
 韮山氏は卓に肘を突き、組んだ手の甲に額を乗せた。どうやら相当参っているらしい。
 
 韮山氏の会社『アーズテック』は、若手の有志プログラマーたちが大手ゲーム会社からスピンアウトして設立した新進気鋭の会社なのだそうだ。結果として、彼らの処女作ルーンは爆発的な売れ行きを見せ、彼らは充分に初期投資を回収し、回転資金を確保することが出来た。となると、次に彼らが求められるのは『次回作』である。過去、一発屋として消えていったゲーム会社やゲームデザイナーは数知れない。ゲームメーカーを『利益を生み出す会社』として評価した場合、『安定した良質な作品を、定期的に供給するメーカー』こそがもっとも優れているのである。そういった意味では、初回のルーン以上にこの『セカンドエディション』は外すわけにはいかない作品なのだ。
 すでに新ルールは作成済。開発スケジュールによると、残るは追加カードとフィギュアの製作で、今週末の東京ゲームフェスにて量産試作をお目見えさせる予定だったのだそうだ。
「ただプレス発表するというだけではありません。これは我々が『スケジュールどおりにきちんと作品を供給できる会社である』ことの証明でもあります。スケジュールを守れるという事は、今後銀行からの融資を受けるための信用や流通への販路にも関わる、非常に重要なものなのです」
 業界を席巻するメガヒットを送り出したと言っても、あくまでも創業間もないベンチャー企業。その経営状況は、まだまだ決して楽観出来る物ではないのだという。
「カードの方は問題なく完成しました。フィギュアはすでにデザインが上がっていたのですが、金型の作成に手間取りまして」
 フィギュアというものを量産するには、溶けた樹脂を固めて成形するための金属の『型』が必要となる。この金型の出来不出来が、それによって作られるフィギュアの質を決定し、その製作には、今なお職人の技術とカンが欠かせないのだそうだ。しかも、金型一つを造るのに数十万円から、ものによっては数百万円の費用がかかる。品質面でも金銭面でも、絶対に失敗が許されない工程なのだ。
「最近は中国や韓国で直接金型を製作するメーカーも多いのですが、我々は原型師の精密な造詣をなるべく再現するため、すべて日本で型を製作しております。懇意にしている金型メーカーと何度もテストショットを繰り返して、ようやく満足の行くものを仕上げることが出来ました。あとはその型で正式に試作品を打ち出せば、フェスには充分間に合うはずだったのです。しかし……」
 夜までかかった金型の調整を終え、やれやれと胸をなでおろして帰宅した韮山さん達アーズの面々は……翌朝、夜のうちに何者かによって金型が盗み出されたという、金型メーカーからの悲鳴混じりの電話で叩き起こされることとなったのだ。
 韮山さん達は大慌てで警察に届け、また自分たちでも捜索を行った。しかしその行方は杳として知れず、ただただ時間ばかりが過ぎていった。そんな時。
「このままではいよいよフェスに間に合わなくなるという瀬戸際で、知り合いの社長から『本当にどうしようもないならダメもとでここに頼んでみろ』と紹介されたのが御社――フレイムアップさんだったのです」
 韮山さんはそう言って、おさらいを締めくくり、深いため息をついた。
 ――そして、その依頼からさらに二日が経過した今日。まさに『金型を取り戻さないと本当にもう間に合わないデッドライン』になって、ろくな前情報も与えられずいきなり当事者として派遣《・・》される事となったのが、この哀れなアルバイト、つまりおれなのであった。
 
「調査結果から報告しますと」
 おれは手元の任務概要をみやる。この任務概要――おれ達は冗談半分に注文書《オーダーシート》と呼んでいる――には、昨日までに他のスタッフ達が調べ上げた情報が精緻にまとめられ記載されている。ちょっとしたもので、これを読めばおれ達現場担当者は、何をすべきか即座に状況を把握できると言うシロモノだ。警察でも手が回らない事件を、依頼を受けてわずか二日でここまで調べ上げる手法も含めて、実際所長を含め事務スタッフの実力は本物だと思う。ここらへんのノウハウは企業秘密なんだそうだ。まぁ、蛇の道はなんとやら、って事なのかも知れないが。
「金型を盗み出したのは、高度に組織化された窃盗団です」
 おれはワイドショーでも有名な、ある大陸系の窃盗団の名前を上げる。
「しかし、今回彼らは金型を盗んで売りさばく、というつもりではなかったようです」
「……と、いいますと?」
「彼らは報酬で雇われた。つまり計画犯は別にいる、ということです」
 韮山氏は目を細めた。意外な回答ではなかったのだろう。では一体誰が、と力なく問う。
「我々の調査では、計画犯は大手総合アミューズメント企業『ザラス』。そして問題のフィギュアは『ザラス』日本法人本社の地下金庫に保管されている可能性が極めて高いのです」
 おれは続ける。
「今回改めて事務所にお越しいただいた理由は一つです。韮山さん。現時点で取り得る手段は幾つもありません。我々がザラス本社地下金庫から金型を強制的に奪還することを、クライアントとして承認していただきたいのです」
 それを聞いた韮山氏はしばし沈黙し、やがてまた深々とため息をついた。
「ザラス、ですか。彼らはまだ僕たちを許してくれないのか……」
 おれは真凛にコーヒーのお代わりを持ってくるよう頼んだ。少し長い話になりそうだった。
 
 株式会社ザラス。子供向け玩具の販売からTVゲーム開発、映画館、ゲームセンターやテーマパーク経営まで手がける、誰でも知っている外資系のアミューズメント最大手である。だが、夢にあふれているはずの業務内容とは裏腹に、ことビジネス面から見るとその評価はあまりよろしくない。主だったものを上げると、
「独占禁止法スレスレ」
「特許を悪用した同業者への威圧行為」
「有望な中小ゲームメーカーからの強引なヘッドハンディング、あるいは会社ごとの買収」
 などがあり、裁判沙汰もいくつか抱えている。未だ明確に「クロ」と裁定された案件はないが、グレーゾーンを突き進むその手法は業界各所で問題を発生させているようである。
「僕たちはもともと、ザラスのゲーム部門からスピンアウトしたんです。ザラスの手法は確かに合理的です。しかし合理的過ぎた。僕らは綿密なマーケティングに裏打ちされたゲームを、無数の制約の元で作らされ、そこに個人のアイディアを盛り込む余地は殆どなかった。酷いときは、他社のヒット商品を牽制するために、そのコピー紛いを作らされたこともあります。……それでも、仕事だから、と割り切っている人たちもいましたし、それはそれでプロとして一つの正しい答えなのですが」
「あなた達はそうではなかったんですね」
「ええ。有志を集めてザラスを辞め、アーズを立ち上げました。しかし、その頃からザラスの有形無形の妨害が始まったのです。……ザラスから見れば、僕らは顔に泥をひっかけて出て行った恩知らず、なのでしょうね」
 そしてコケにされたと解釈した覇王ザラスは、報復を開始する。創業時にアーズに融資をしてくれた銀行が、経営に文句をつけるようになった。親しかった音響製作会社やデザイナーのスケジュールが、ドタキャンされたり後回しにされるようになった。当初は、若造が後ろ盾なく独立したのだから仕方ない、と思っていたのだが、あまりに不自然な対応に関係者を問い詰めてみると、ザラスから圧力がかかっていたことを告白したのである。
「それでも、なんとかルーンを世に送り出すことが出来たのです。だが、それがまずかった」
「というと?」
「当時、ザラスもカードゲームに力を入れていたのです。僕も開発初期に関わったゲームで『ゾディアック・デュエル』と言います」
 それはおれも知っていた。ルーン程ではないが、佳作と賞された対戦カードゲームだった。たしか数々のボードゲームやTVゲームを手がけた有名クリエイターが製作指揮を取っていて、ええと名前は……。
「山野。山野修一です。僕の入社時代からの上司にして先輩、同僚でした。彼には一からゲーム作りのノウハウをたたき込んで貰って、何本ものゲームを一緒に作ったんです」
「なるほど。韮山さんのお師匠様なんですね」
 真凛の問いに、韮山さんは微妙な笑みを浮かべた。強いて言うなら、ほろ苦い笑い、だろうか。
「そうですね。でも結局、僕は師匠の顔にも泥を塗ることになってしまいました。ルーンは、皆様の応援もあって、ありがたいことに大ヒットとなりました。しかしそれは、ゾディアックが少しずつ開拓してきた対戦カードゲームのシェアを、後発のルーンが思い切り食ってしまう事でもあったのです」
 ザラスにしてみれば、家出したはずの息子が突如帰ってきて、自分の田畑を分捕ってしまったようなものだろうか。
「これで我々と彼らの関係は完全に決裂しました。僕としても残念でしたが、それも仕方がない、何とか干渉せずにお互いの仕事をしていければ、と思っていたのですが……」
「向こうはあなた方より、はるかにやる気に溢れていたようですね」
「なるほどね。第二弾を何とか妨害しようって、ミもフタも無い手段を仕掛けて来たんだ」
 聞き役に徹していた真凛が呟く。それを制して言う。
「我々の調査がどのようになされたか、という事は残念ながら申し上げられません」
 おれはオーダーシートを静かに卓に置き、彼に押しやる。
「そして、この調査結果は残念ながら裁判で証拠資料として提出出来るようなものでもありません。しかし、我々はこの調査結果の確度に自信を持っております」
 一つ息を吸う。ここから先は決めセリフだ。
「我々は依頼者の意思を尊重させていただきます。我々がこの調査結果に基づきザラスに潜入し……もしも失敗して捕まったり、金型を見つけることが出来なければ、御社の名前に傷がつくことは避けられないでしょう。反面、成功し取り返した場合、もともと『ないはずのもの』である以上、ザラスは御社に対して公式に反撃することはできない」
 韮山さんの目を見つめる。
「御社が苦しい状況にあり、他に選択肢が無いと知って言う失礼をお許しください。我が社に、私と、このアシスタントに仕事を任せて頂けますでしょうか」
 傍から見ればけったいな状況だ。大学生のアルバイトと高校生のアルバイトが、怪しげな資料を突きつけて、企業の実力者に「あんたらのために危ない橋を渡るから責任取れ」と言ってのけているのだ。こんな話、通常は噴飯ものだが。
「……貴方たちのお話は聞いています。例え過程がどうあれ、目的は間違いなく達成されるのだと。正直、今日直接お会いするまでは依頼すべきだったのか悩んでいました。ですが……。よろしくお願いします。我が社を……僕たちのアーズと、ルーンを助けてください」
 おれは息を吐き出した。契約は成立、というわけだ。
「お任せください。『フレイムアップ』の名にかけて、結果はきっちり出しますとも」
 ……思えばこんな言い方をするから、『人災派遣会社』とか呼ばれるのかもなあ。
 
 おれ達はそれから〆切時刻の詳細、経費の取り扱いの再確認など、事務的な打ち合わせを行った。やがて韮山氏は、ゲームフェスの準備をしなければならないと、足早に事務所を去っていった。去り際に、こう一言を残して。
 「ザラスも昔はそこまで酷くは無かった。僕と山野さん達がゾディアックを開発した時も、毎日毎日徹夜続きで、会社に寝袋を持ち込んで、気が狂いそうになったりもすした生活でしたけど……。今振り返れば、それはそれで、きっと楽しかったんだと思います」
カテゴリー:_小説1話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年09月23日 (水)01時39分
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。