猫又公司


小説・TPRG系サークル『猫又公司』のウェブサイトです。

小説:人災派遣のフレイムアップ

人災派遣RPG

人災派遣RPG

リプレイ 『人材派遣のCCC』

CCC

ドラマCD&同人誌

プロフィール

管理人:紫電改
アイコン
小説、TRPG、サウンドノベルを中心に創作活動を行う同人サークル『猫又公司』のWebサイトです。作成した小説、TRPGリプレイ、ドラマCDなどの情報を掲載しております。
twitter@Shidenkai_79



ぴあすねっとNAVI様

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリー:スポンサー広告 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | --年--月--日 (--)--時--分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 9

「はぁ~、お腹一杯だと幸せだよねえ」
「……奢りならなおさらな」
 途中の蕎麦屋で昼飯としてざる蕎麦六枚とカツ丼セットを平らげ、おれ達は千代田区のマンションに戻ってきた。ちなみにおれが食ったのはざる二枚な。なんていうかおれのバイト代の経費はほとんどコイツのメシ代に消えているんじゃないだろうか。別に年上の貫禄で奢ってやる、というわけでもなく、ただたんに毎回連続でジャンケンに負けているということなのだが。何故だか知らんがこいつ、ジャンケンが反則的なまでに強い。いちおうその凄まじい動体視力を使った反則はしていないらしいが、だとすればなおさらとてつもない強運ということにもなる。入った店が高田馬場の学生向けの店で助かったぜ。
「くそう。前金がほとんどパァだぜ。何としても成功報酬を貰わないといかんな」
 おれ達の任務には経費という概念が極めて希薄だ。おれ達には任務に従事する際、かなり自由な行動権が与えられる。かと言って、事務所としてもあまりに好き放題やられて費用が依頼料を上回るようなことになれば本末転倒である。特にウチの連中は派手な事をしたがる、せざるを得ない奴らが多いので尚更だ。結局、このような事情が相まって、現在のところは自己採算性ということに落ち着いている。つまり、報酬額は充分に支払われる代わりに、任務中に発生する諸々の費用は全て自分持ち、というわけ。高めの報酬を手に入れたければ、『なるべく安上がりに』解決せねばならない。反面、経費をケチって任務を失敗しては目も当てられないので、おれ達としては常に己の財布と相談しながらの任務遂行となる。中には己の能力を行使するのに特殊な媒介、例えば宝石や呪符など、を用いる奴もいて、そういう連中は媒介を通じて一段強力な力を行使できる反面、毎回収支を合わせるのが大変らしい。
 ともあれ、マンションの玄関を空けると、相も変わらない緑のスイカの海の中、これまた不景気な面でコンビニ弁当と向かい合っている直樹がいた。
「早かったな」
「羽美さんがいたからな」
「そうか……」
 その一言で大体の事情を察したらしい。直樹は黙々とチキンカツ弁当を平らげていく。
「なんだ、ジャンクフードは嫌いじゃなかったのかよ」
「嫌いだ」
「だからってそんなに仏頂面で食べるなよ。弁当に罪はないぞ?」
 こいつは貧乏人のくせにやたらと衣食住にこだわる。昔の羽振りが良かった頃の癖が抜けないのだろう。出来合いのコンビニ弁当やら二束三文の投売り衣料はこいつの嫌いな最たるものだ。とはいえ、いくら嫌ってみたところで財布が無ければ何も文句は言えないのがこの東京砂漠。結論としてこいつは現実と折り合いをつけつつ理想を追求していくことになる。その成果か、ここ数年でこいつはブランド品の特売やらスーパーの食材の相場やらにやたらと精通した。主婦もびっくり一家に一台、お買い物の達人に成長したのである。そうやって身を削りつつ見栄を張って、得た報酬は先ほどのような趣味の領域につぎ込んでいるのだから、やはりこやつの考えることはおれには理解できない。
「衣食住を満たして趣味にまで金を使えるのだ。これほど幸せな人生はないぞ」
 ああそうですか。お前に将来の夢って言葉は、ってまあ将来って言葉自体あんまり意味がなかったっけかな。食うか、と直樹が残りの弁当を押しやってきたのを断り、おれは今までの事情を説明した。直樹は眼鏡を押し上げ、
「では、これから埼玉のその死別した奥方の実家とやらを訪問するというわけだ」
「そういう事になるな。お前はどうする?」
「ふん。午前中はゆっくり居眠り出来たことだし、流石にそろそろ留守番も飽きてきたな。真凛君さえよければ、今度は俺が出よう」
 午前中から読みふけっていたらしいライトノベルを鞄に仕舞いこむと、一つ首を鳴らして立ち上がる。
「貴様はどうするのだ?」
「どうしようかね」
 正直なところ昨夜もゆっくり眠れていないので、真凛と直樹が出て行くというのならおれはここで今度こそごろ寝を決め込みたいところなのだが。
「ボクは直樹さんと一緒のほうがいいなあ。陽司と一緒だとこっちの品位も疑われるしね」
 などと抜かすお子様。犬ですらメシを奢ってやった恩を忘れぬというのにッ。だいたい街を特大フィギュアをぶら下げて歩く人間と共に歩いて品位が疑われないと言うのか。おれなんてせいぜい街を歩く美人のお姉さんを見つけると気になって一日後を追跡してみたりする程度だぞ。何がいかんのだ。顔か。顔なのか!?
「まあいい。とにかく。そっちは特に変わったことはなかったか?」
 おれは投げやり気味にザックをスイカの海の向こうのテーブルに放り投げた。狙いは外れたがどうにか片隅にひっかかった。
「ふむ、そうだな。しいて言えば宅配便の男が来たくらいか」
「宅配便?」
 真凛と思わず顔を見合わせてしまう。
「一応俺も貴様の話は聞いていたからな。ほれ」
 直樹がひょいと投げて寄越したのはうちの事務所の小道具の一つ。全体から突き出た無数のコネクタでありとあらゆる回線から貪欲に情報を吸い上げるマルチ録音録画システム『シャー録君』である。
「インターホンのジャックにかましておいたから、映像は撮れているはずだ。見るか?」
 そういうことなら異論は無い。おれはさっそくシャー録君内臓のUSBケーブルを引っ張り出すと、断り無しで直樹のノートPCに接続した。
「ああ。こりゃ昨日も来た宅配便のおじさんだな」
 録画されたインターホンの画像はまさしく昨日来た、やたらと元気のいいあのおっさんであった。これならば取り立てて騒ぐことでもない。
「昨日、また後日伺います、って言ってたからなあ。また今日来てみたんじゃないのか」
「それもそうだな。では我々も奥方の実家に赴くとしようか」
「ちょっと待ってくれませんか?」
 異議を申し立てたのは真凛だった。
「なんか気になるところでもあったか?」
「もう一回巻き戻してみてよ」
 おれが見た限りでは特に不審な動きはなかったが。ともあれおれは画像再生ソフトをクリックして映像を巻き戻した。それを食い入るように見やる真凛。そういや昨日はおれが応対に出たから、こいつは直接宅配便のおっさんを見てはいなかったな。
「この人、本当に宅配便の人かな」
「どういう意味だよ」
 真凛の頬が緩んでるということは、結果はだいたい想像できるが。
「軍人の歩き方をする宅配便の人って、日本にはそうは居ないと思うな」
「兵隊の歩き方って。お前そんなもんわかるのか」
「昔良く大会に飛び入りで参加してくる元軍人の外人さんたちがいて。そういう人に共通する歩方だった。歩幅がかっちりしてるからすぐわかるよ」
 ドコノ大会デスカ。
「ははあ。じゃあマシンガンでも持って攻め込んでくるとか?宅配便のおっちゃんが」
 冗談のつもりだったのだが。
「陸軍の人とはちょっと違うと思う。どっちかって言うと、もっと身軽な武装を前提にしてるかも」
「軽装と言うと、ナイフ、拳銃といった所かな」
 横から口を出す直樹。
「ええ。それとあんまり表に出てくる人じゃないみたいですね」
「と言うと?おい亘理、拡大して見ろ」
「へいへい」
 どうでもいいが三人いると狭くてしょうがない。
「……やっぱり。歩行に癖があります。意図的に隠しているんだろうけど、歩くたびに足の裏に重心が移動してる。これ、忍び足の要領ですよ」
「忍び足が日常化しているような生活を送っている、という事か」
「んで歩調は軍隊調、だろ。と言うと……」
 どっかの特殊部隊、というところだろうか。
「あるいはどこかの秘密警察とか、な」
 直樹が苦々しげに呟いた。どうもこいつはこの種の手合いと反りが合わないらしい。
「どこかの軍人が足を洗って宅配便会社に勤めてる、って線を期待したいところだがなあ。まあ無いだろうな。要注意人物、以後は来ても応対しない方が良いな」
「真凛君。一つ聞くが。その男の歩き方から、得意そうな間合いとかはわかるかい?」
 間合い、とくればこいつの得意領分だ。何と言っても相手の体勢から弾道すら見切る娘である。と、真凛の顔がふと曇る。
「どーした?」
「うん。この人の腰の入れ方だと明らかに一足一刀以上の遠間を想定した攻撃を繰り出してくるはずなのに。歩き方はほとんど武器を携行しないものに近いんだよ。癖をここまで消せるものなのかな、だとしたら相当な強者だけど」
 んー。よくわからん。ちょっと整理。
「つまりこういうことか。槍みたいな長い間合いで攻撃するのが得意のはずなのに、普段は槍なんて持ち歩いていない、ってわけか」
「うん。そんな長いものをぶら下げてれば必然的にどこかバランスが歪むはずなんだけど」
「そりゃ、誰だって昼日中から槍なんぞぶらさげて歩いている奴はいないよ」
「そう。忍び歩きが習性になっているような人だし。だからこそ、長い槍を扱うことが信じられないんだ」
 ふぅむ。
「何、そう悩むこともあるまい。事態はもう少し簡単なのではないかな」
「え、どういうことですか?」
「ンだよ、言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「そうだな。例えば、そいつの攻撃方法が『手から何かを槍のように伸ばす』だとかな」
 あ、とおれと真凛の声が重なった。
スポンサーサイト
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月31日 (土)17時34分

登録社員名簿:054 『紅珊瑚』 進藤 珠海

「悩んでたってしかたない。今はここで、泳ぎ続ける!」

【名前】進藤 珠海(しんどう たまみ)
【通り名】『紅珊瑚』 (コーラルルブルム)
【所属】CCC
【年齢】16
【容姿】化粧気のないスポーツ少女
【正業】高校生
【経歴】
 CCC所属の能力者達のうち、海上や水中での活動を
得意とする者による選抜ユニット「ディッパーブレイク」の一員。
 八百比丘尼の血を引くとされ、自らも人魚に変身する力を持つ。

 幼い頃より水に親しみ、中学時代は水泳部で日々努力し好成績を修め、
いずれはインターハイ優勝と目されたスイマーだった。
 しかしある日能力が発現。己の力と先祖のことを知ってしまってからは、
「自分の記録は、練習ではなく異能によるチートによるものだった」という疑惑に囚われ
水泳に向き合えなくなり退部。
 高校進学後、失意の中で無目的な高校生活を送っていたところ、
謎の魔女の強引なスカウトにより半ば騙されるようにCCC所属となってしまった。
 現在は任務と学業を並行しながら将来の新たな夢を探す日々。

【スキル】
『人魚変身』
 文字通り人魚に変身し、水中、海中で自在に行動する能力。
 息継ぎなしで潜り続け、魚よりも早く泳ぐ。
 今のところ戦闘要員ではないので、他のメンバーのアシストとして
主に水難救助や海底の捜索などで活躍している。

『浪裡白跳』
 今後の活動の足しに、と河童の血を引く「ディッパーブレイク」の同僚から
アシスト任務の合間に教わっている水中格闘術。
 船上や堤防の敵をいきなり水中に引きずり込んで絞め落とす荒技。

 変身能力を除けば珠海の戦闘技術は一般人並だが、
 実のところ数ある異能力者も海の中に突き落とされてしまえば
ほとんどがその力を使えないため、敵対企業のエージェントを仕留める
隠れたポイントゲッターとして実力を発揮しつつある。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月31日 (土)01時25分

登録社員名簿:053 『瘧』

「低き地に住まうものに災いあれ……」

【名前】失伝
【通り名】『瘧』 (マラリア)
【所属】モノクローム S級
【年齢】不詳
【容姿】端正な顔立ちのムスリム貴族
【正業】実業家(不動産、コンサルタント)
【経歴】
 大航海時代に東南アジア方面で発生したと推測される古種吸血鬼。
 長き年月を生き、深い知識と知恵、確とした理性を合わせ持ち、膨大な資産を築いた賢き富裕者。
 だが吸血鬼の常として人としての魂はすでに摩滅しきっており、
吸血鬼の本能である『疫病を広める』ためだけに活動する。
 資産も知識も人脈作りもその目的にむけてのものであり、
人間は時に共闘することもできるが、根源的に価値観が異なるため仲間や同胞となることは決してない。 
 本来は派遣業界とは相容れない存在だが、
能力至上主義のモノクローム社が役員待遇の顧問として招聘し、業界を震撼させた。

【スキル】
『吸血鬼の血』
 怪力、自己再生能力、暗視等々、
いわゆる吸血鬼として数々の特性を体得している。
 『瘧』はその特性一つ一つが、
並の異能力者の『切り札』に匹敵しており極めて強力。
 反面、日光や流水に弱く、戦闘となればここを突くしかないであろう。

『魔術』『武術等』
 ベーシックな魔術、近接戦闘における武術を使いこなす。
 あくまでも吸血鬼として長い時を生きる中で身につけた一般的な技術であり、
当人にとっては特殊なものではない。
 それでも業界の並の武術家や魔術師程度の力量では到底太刀打ち出来ない。

『沼地の悪魔』
 己の象徴たる膨大な蚊の群れを発生させる。
 条件さえ揃えば数カ国を一夜のうちに伝染病で壊滅状態に陥れることが可能だが、
過去の聖フィロフィティアの退魔師達との戦いによりその力には大きく制限がかかっている。
 ただし通常戦闘において大量の蚊柱を召喚する程度は全く問題なく、
この蚊柱に呑まれたものは例え能力者であろうと、
悪性のマラリアが通常の数万倍の速度で進行し死に至る。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月28日 (水)23時05分

人災派遣のフレイムアップ 第7話 『壱番街サーベイヤー』 14-b

「何やってるんだあの間抜けは」
 パイプ椅子にどっかと背を預け、颯馬は額に手を当てた。紅華飯店の三階、商用客のミーティングやプレゼンテーションに使われる会議室の一つである。マンネットブロード社の派遣社員は仕事にあたる時、交通の便、ネットインフラ設備の充実、依頼人とのコンタクトなどの観点から、ホテル内の会議室を前線基地として使用することが多々ある。颯馬達がいるこの部屋もまさにそれで、高級な内装にそぐわない実用一辺倒の折りたたみ机や椅子が並べられ、卓上に置かれたノートPCからは、監視にあたっている部下の記録した音声がリアルタイムで再生されていた。
「任務中にカレーで腹を壊すなんぞ、プロの自覚があるのかアイツ」
 憮然としてつぶやく。さすがに店内の様子まではわからないが、ファリス皇女と亘理の会話を拾えば、だいたいの内容はわかった。
「七瀬真凛サン、ですカ。最年少のフレイムアップメンバー。この間、『竜殺し(ドラゴンバスター)』の称号も得た、聞いてマス」
「ふん。武技の研鑽は怠っていないようだな」
 美玲の言葉に、颯真は嫉妬を隠さなかった。『竜』の異名を許された化物を打倒した者のみに与えられる、『竜殺し』の銘。武術に生きる者にとっては、エージェントとしての実力や格付けとはまた別の、垂涎の称号である。
「近頃彼女のコト、ウチの社員達からも人事課へ問い合わせあるようですネ」
「だろうさ。ウチの前衛はどいつもこいつも社員である前に武芸者だ。強い者がいたら手を合わせたくなるのはもう本能みたいなもんだろ」
「無名の新人(ノービス)から、追われる側(ターゲット)になテきてるてことデス。ご本人、自覚ないようですガ」
「渡さんさ、他の奴になんぞ」
 左の袖をまくる。肉を毟りとられた無惨な傷の跡が、ミミズのようにのたくっていた。外見で相手を侮り無造作に放った崩拳の、高価な代償(つけ)。地仙の元で鍛え、神童、並ぶ者なしなどと謳われ増長した小僧への、手厳しい実戦の洗礼だった。
「あれから半年。鍛錬と大物喰いを為したのは、お前だけじゃないぞ」
 唇の端が曲がる。それは武芸者としての誇りと、好敵手に対する若者らしい敵意が混じり合った、物騒な笑みだった。
「坊ちゃまの出番、まだ後。今はフレイムアップが暗号探す、待ちでいきまショウ」
「だが、何もしてないわけじゃないんだろう?」
 颯馬の問いに、美玲ははて、と惚けた表情を浮かべる。
「冗談はよせ。七瀬の相棒はあの古狐よりたちの悪い亘理だ。今のうちに仕込みを済ませておかねば遅れをとることくらい、俺にもわかる」
 惚けた顔から一転、なんとも曖昧な笑みへと変わる。称賛と艶と、そして毒。
「坊ちゃま、日々成長私嬉しいのコトです。でも王様、細かいこと考えずどーんと構えてればいいデス。細かいことするの、臣下のシゴト」
「……だな。では存分に勤めを果たせよ、美玲」
『お任せあれ』
 リズミカルな中国語で返答する美玲。とその時、卓上に置いてあった携帯電話がうなりを上げた。
『もしもし?……ええ……ええ……なんですって?わかったわ。……そちらは、引き続き監視と報告を』
 電話を切った美玲の表情には困惑が浮かんでいた。相手は今回の任務に従事している監視員のひとりだ。
「どうした?」
 しばしの逡巡の後、彼女は答えた。
『ビトール殿が、動き出したと』
カテゴリー:_小説7話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月24日 (土)13時16分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 8

「……と言っても、実際にやることはネット上の検索なわけですか」
 おれは事務所の奥にある石動研究所(和室六畳間。ちなみに隣には洋室六畳の仮眠室がある)に通された。和室と言いつつ無数の配線と機材のジャングルに埋もれ、畳なんか一平方センチメートルだって見えやしない。羽美さんが巨大バイスの上にノートPCを乗っけてソフトを起動させる。おれはと言えば座るところも無いので、立ってPCを覗き込むしかない。
「まあな。来音のように紙媒体の資料を地道に漁ると言う手もあるが、今回はそこまで悠長に調べている時間は無いのだろう?」
 おれは頷く。うちの事務所の情報は、ほとんどが羽美さんがネット上で集めてくるデータと、来音さんが官公庁や図書館、各種年鑑から調べ上げてくる書類、所長の人脈に拠っている。今回は来音さんにも動いてもらっているが、今夜にもあの黒いコートの怪人が再度襲ってくるかもしれないとなれば、情報は出来るだけ早いうちに揃えておきたいものだ。
「そこで、コイツの出番となる。石動研究所謹製、機能拡張型検索ソフト『カー趣夫人』であるぞ」
「……ただの検索エンジンじゃないっすか」
 起動されたのはごく一般的なブラウザソフト。そこには検索エンジンと思しき、キーワードを入力するだテキストボックスが一つあるだけのシンプルなページが表示されている。どうやら羽美さんのオリジナルのようだが。
「如何にも検索エンジンよ。だが、『ただの』ではないぞ」
 羽美さんは『笹村周造』と打ち込むと検索ボタンを押した。たちまち表示される『笹村周造』の文字を含むページ。そこには同姓同名かと思われる『笹村周造』氏の情報がいくつかと、無数の『笹村』さんと『周造』さんの情報が含まれている。
「つうか。ここまでならおれでもすぐ出来るんですが」
 というか、中学生でも思いつくぞ。初恋の人の名前を何となく入れてみたりとかな。
「そんなことをやっていたのかね?」
 いやまて、みんなやるだろう?少なくとも自分の名前を入れてみたりとか。
「まあ待つがよい。亘理氏。貴公の調べたい『笹村周造』はこの中に居るか?」
 無数に表示された検索結果を眺める。クランビールの研究所のページの社員名簿一覧の中に『笹村周造』と確かにあった。
「この人で間違いないでしょうね」
「そうか。ではこの人物についての情報を集めるとしよう」
 羽美さんは手際よく、そのページの『笹村周造』のテキストをダブルクリックした。
 瞬間。
 ブラウザソフトが猛烈な勢いで情報を吐き出し始めた。並行して無数のファイルがノートPCのデスクトップ上に積み上げられてはフォルダに格納されてゆく。
「な、何をやってるんですか?こいつ」
「いやあ。実際の所片手間に作ったものであまりたいした事はしておらんのだ。クラウド上に放牧している人工知能と連動させた検索システムでな。文面からこの『笹村周造』氏の周辺情報、例えば三十台男性であるとか、クランビール社員であるとか、大学はどこか、などを読み取り、それ自身をキーワードとして再検索。結果を元に『笹村周造』の情報を再強化。今度はそれによって得られた学生時代の研究所名や入社年度をキーにさらに再検索……と繰り返していく。人間がネット上で個人の情報を追跡する時と基本的には同じだが、これを人工知能の速度で、徹底的にやりつくす。SNS上に泳がせている人間に擬態させたbotも使用して、対象が使用していると思わしきアカウントを絞り込む。キーワードを選択するセンスと、紛らわしい情報や嘘を見分けるカンにはまだまだ改良の余地があるが……ま。五分も検索すればそれなりに成果が出るはずであるよ」
 それは結構凄いことなのではないだろうか?
「たいしたものではない。大手検索会社はすでに着手しているしな。小生がこれを作ったのはひとえに我が終生の目標の為よ」
「ああ、美少年アンドロイドを作るのが夢なんでしたっけね」
 ここらへんは深く突っ込まないでおいてやって欲しい。
「ハッキングとウィルスを連動させて、よりプライベートなデータベースからも情報を奪ってくるように強化してみるのも一興かも知れんな」
「そ、それはいくらなんでも犯罪ゾーンぶっちぎりかと」
「おう、そんなことを言っているうちに出来上がったぞ」
 チーン、と一昔前の電子レンジのような間抜けた音がして、検索ソフト『カー趣夫人』は終了した。あとに残されたのは一つのフォルダのみ。おれはそれを開く。
「……凄い」
 中に入っていたのは一つのHTMLファイルだった。そこには、『笹村 周造』氏の生誕地、学歴、就職先、転居の履歴、健康状態、現時点の身長体重。予想される趣味や好き嫌い。ネット上のハンドルネームや、頻繁にアクセスしているサイトまでがずらりと列挙されていた。しかもどこから手に入れたのか、学生時代の写真や子供の頃の写真まで添付されている。
「ふぅむ。やはり一流企業の優秀な研究者ともなれば、それなりにネット上に経歴や足跡を残している。ウェブ上の情報でも、力技のストーキングでそれなりには見られるようになると言うことだな」
 のほほんとのたまう羽美さんとは対照的に、おれは冷や汗を禁じえない。これでは個人のプライバシーなど丸裸も同然ではないか。
「なあに。ここに上げられているのは全て推測だ。鵜呑みにすれば痛い目にあうのは貴公の方だぞ?」
 言ってにやりと羽美さんは笑う。
「それを確かめるのが貴公らの仕事だろうが」
 それもそうか。おれは頷くと、羽美さんが助けてくれたこのファイルを丹念に見てゆく。クランビール勤務。それ以前は某大学の農学部の大学院に在籍していたのだそうだ。ここらへんは所長が事前に調べた情報とも合致する。その前は、と。おや。
「結婚してますね、この人」
「ふふん。それも婿養子に入っているようだな」
 ああ、なるほど。姓が変わっているわけだ。普通に検索しただけでは旧姓の情報は取りこぼしているかもしれない。おれは結婚前後の情報を集中的に調べてゆく。
「旧姓『吉村 周造』。大学農学部在席時に同大学国際学部の『笹村 瑞恵』氏と結婚。以後、笹村姓を名乗る。へぇー。学生結婚か」 
 おれにとってはまるで異星の出来事である。
「大学院生ならそう珍しいことでも無いとは思うがな」
「そういうものですかねえ、っと。ちょっと待った。奥さんが居る人が東京で一人暮らしってことは、単身赴任か?」
「いや。ここに書いてあるが、笹村瑞恵氏の実家は埼玉県の草加市だ。入り婿なら充分に通えるはずの距離だぞ」
「羽美さん、この瑞恵さんについて同様に調べることは可能ですか?」
「無論の事」
 言うや、羽美さんは再びPCを走らせ、猛烈な勢いで情報が吐き出される。ファイルが完成されるのを待っている間に、部屋に所長が入ってきた。
「三日見ないと新しい機材が増えてるってのはどういうわけかしらねぇ」
「何。必要経費だよ社長ッ。経営者は細かいことを気に病んではいかんッ!」
 ちなみに羽美さんはなぜか所長のことを『社長』と呼ぶ。
「こないだ回してくれた領収書。ソフトって書いてあったけどアレ、ファミコンのゲームでしょ?」
「イ、インスピレーションを養うのに必要なのだよッ」
 そういや地底大陸オルドーラなんて買ってたな、この人。
「さ、さあ亘理氏。待望のデータが完成したぞ。見てみタマエ」
 露骨な話題のすり替えだったが、このままでは何時までも話が進まないので乗ることにした。おれは眉を顰める。
「死別してますねえ」
 笹村瑞恵氏は大学時代に国際学部に所属していたとの事だが、どうにも日本の枠には収まらない人物だったようだ。結婚後は商社に就職し、学生時代に培った語学の知識を生かして各国で働くかたわら、ボランティア活動にも力を入れていたようである。まさしく国際派キャリアウーマンを地で行っていた、というあたりだろうか。
「死因は……飛行機事故、か。旦那さんもやりきれないわねえ」
 東欧の某国を移動中に飛行機が墜落して、奥さんは帰らぬ人となったのだそうだ。その後も笹村周造氏は『笹村』の名を変えず、現在も己の仕事を継続しているのだと言う。資料をしばらく見ていた所長がおもむろに口を開いた。
「亘理君。笹村氏って他に家族はいるの?特に都内に」
「えーと。実家は福島の方みたいですね。ご両親は学生時代にすでに他界されてるし、親しい親戚はここらへんにはいないみたいです」
 ふむ、と所長は形の良い顎に指を当てて考えた。
「じゃあ十中八九、笹村さんがいるのは奥さんの実家でしょうね」
「そんなことわかるんですか?」
「まあねえ。そういう人ってね。割と結婚するとき『家族』を求めるものだから。ただ好きな人と結婚するだけじゃなくて、その人の家族の一員になろうとすることが多いのよ。笹村さん、子供もいなかったんでしょう?何かトラブルに遭遇したのなら、戻るのは自分の『家』じゃないかしら」
 そんなものなのだろうか。
「さすが所長!感服しました。さすが不倫慣れしていらっしゃる。三十男の心理は手にとるようにわかるというわけですね!」
「殴るわよ?」
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月23日 (金)01時21分

派遣会社概要:011 『シュライン・オブ・シリューガ』

【サークル名】
 シュライン・オブ・シリューガ

【幹事】(持ち回り制)
 『銅竜』(コッパードラゴン) ロイ・ガンティアン (アジア2位)
 『魔女』(イシス)  ミレイナ・スヴァリ (ヨーロッパ1位)

【概要】
 会社ではなく、世界有数のランカーエージェント十数人によって構成される『社交サークル』。

 派遣会社に所属せずフリーで活動するエージェントのうち特に実力があるものは、
業界に公開された『ランキング』に登録することが多い。
 任務達成のたびにポイントを積み重ね、ランキング上位となれば実力者として認められ、
桁違いに高額な報酬で仕事を受けられるようになる。
 ランカーのうちトップクラスともなれば国家元首や財閥などを主な顧客とし、
本当の意味での『選ばれた者』――セレブとしての生活を送る事が出来る。

 反面、己の業績を公開するリスクは極めて高く、能力は徹底的に調べ上げられ、分析、マークされる。
 ランカー同士の引っ張り合い、追い落とし、悪評の流布は日常茶飯事の世界でもあるため、
優雅に見える生活とは裏腹に、常にライバル達との見えない競争にさらされることとなる。

 こうした背景から、「互いの仕事に影響が出ない程度の距離感を保つ紳士協定の場」かつ、
「互いの顧客や儲け話などの人脈、情報交換の場」として、トップランカーの有志達によって
設立されたのがこの「シュライン・オブ・シリューガ」である。

 よって、サークルメンバーはいずれも業界における世界トップランカー。
 万人が認めるS級中のS級、それも最前線で活躍し続ける現役選手達である。
 彼らがチームを組むことはないが、単純な戦力の合算だけで言えばまず最強である。
 ランキングに参加する者たちにとって、ここに招待されることが最高の名誉と富を意味する。

 最も、業界では己の情報公開を嫌いランキングに参加しないエージェントの方が大多数であり、
彼らは間違いなく「最強、最優クラス」であるが、必ずしも「業界で一番スゴイ」ではない。


【所在】
 なし。
 年に数度、南の島やヨーロッパの山荘、ラスベガスのカジノなど
 『いかにもセレブ』な場所で定期的な会合が開催される。
 ランカー達は自らのフォロワーや友人を招いて華々しくパーティやスポーツに興じるが、
実際には「さらに大きな仕事を呼び込むため」の己の実力と勢いのアピールの場であり、
例えレジャーやバカンスに全く興味がなくとも盛大な散財をしなければならない。

【業務】
 会社ではないため、組織として仕事を引き受けると言うことはない。
 しかし仕事を依頼したいと考える資産家や著名人、
 スケジュール的にランカー達が断った仕事を引き受けるフォロワーらも集まっており、
 このパーティーが次の仕事につながることが多々ある。
カテゴリー:_設定資料_派遣会社紹介 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月20日 (火)01時35分

登録社員名簿:052 『貞淑なる野花』 千束 紀玲

「吸血鬼の呪縛から、貴女を必ず救い出す」

【名前】千束 紀玲(ちづか すみれ)
【通り名】『貞淑なる野花』 (ヴァイオレット)
【所属】聖フィロフティア
【年齢】18
【容姿】長い黒髪に白い肌、目つきに険がある事を除けば完全な清純派美少女
【正業】高校生
【経歴】
  今ではむしろ珍しい、十字架と聖水で戦う正当派ハンター。
 経歴も正統派で、ミッション系黒髪ロング女子高生にして教会の一人娘――ただし、ガチ百合(本人は否定)。
 高校ではお姉様と慕われ、断るのも悪いので複数の後輩と爛れた関係にある(本人は否定)。
 かつて彼女を庇って咬まれ上位吸血鬼『狂いウサギ(ムーンヘア)』に堕した親友を救うため、常に鍛錬を欠かさない。
 その情熱は後輩達に涙ながらに「それほど想う方がいるのであれば身を引きます」と言わしめるほど(本人は否定)。

【スキル】
『狩人の業』
 千束家に継承される対吸血鬼戦闘術。自身の霊力を聖水や十字架に込め、
戦いに使用する(あくまで霊力を込めるから効くのであり、教会の聖水といえど実際はただの水である)。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月18日 (日)21時45分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 7

「それで、そんなものを引きずってここまで戻ってきたわけ?」
 何か昨日も所長のこんな呆れ顔を見た気がする。 
「……あまり深く突っ込まないでおいてくださると助かります」
 こめかみの辺りを押さえつつ、おれは事務所の冷蔵庫から引っ張り出してきた麦茶を三人分注ぐ。ここまでやってくる間の地下鉄で、美少女フィギュア十三体を背負った男に注がれる視線は痛いというのも生易しいものであった。おれはとっとと直樹のグッズをロッカーに放り込み厳重に扉を閉めた。ところが共に電車に乗ってきた真凛はといえば、意外にもけろりとした表情。
「そんなに恥ずかしいかなあ?」
 などと抜かしている。
「だって。可愛いじゃない?こういうの」
 いや、まあ確かに可愛いといえば可愛いのだろうが。こういうモノをいい年をした男が持ち歩くというのはその、おれの感覚からすると極めて容認しがたい気がする。
「いいんじゃないのかな。自分が好きでお金を払って買ったものなんだから。堂々と持って帰ればいいのに」
「おれが買ったんじゃない!」
 そうだったね、などと真凛はからからと笑った。
 
 余談だが、いわゆるキャラクターグッズを集めたりしたがる感覚は、おれには全く理解が出来ない。物語を読むのは好きだ。そして物語にキャラクターが存在するのは当然だし、マンガやアニメのようなダイレクトに映像が把握できるという利点はすばらしいと思う。だがそれは、あくまでキャラクターと言う物語上の記号を修飾するための存在であるに過ぎないはずだ。個々の物語上に生きる存在が、その物語から分離されてフィギュアやイラストになったとして一体何の価値があるのか。そう思ってしまうのだ。そんな話を直樹にすると、だから貴様は病気なのだ、と言われる。おれから見れば奴のほうがよっぽど病気なのだが。決まって最後には、奴はおれの事を、事象を記号としてしか類別出来ぬつまらぬ奴、と抜かし、おれは奴のことを無意味な抽象物に財を投じる愚か者、と罵り大喧嘩になる。
 ちなみにこんなワケで、おれは絵画や彫刻にもまったく興味が無い。そこにあっても何の役にもたたないものに無理やり意味付けをするというあの感覚が理解できないのだ。機械やソフトウェアの方がよほど製作者の意図、改心の点や力及ばなかった点などを汲み取れるというものだ。……そんな話をするおれが文系で、直樹が理系というのも、世の中奇妙なものではあるが。
「とにかく今回の依頼の件なんですがね」
 おれは麦茶を飲み干した。
「まずは依頼人を見つけださないことには始まらないと思うんですが」
 なにしろ最終的に報酬を払ってくれる人がいないのだ。最悪の場合は事前に支払ってもらっている保証金で補填することになる。それはそれで確かに魅力的なプランではある……が、一応任務達成率百パーセントなんてカンバンを掲げている以上、あんまりあっさり退く訳にはいかない。そんなことをついつい思ってしまう辺りが、経理の桜庭さんに「お若い」と呼ばれる所以だろう。
 しかし、いくら蛇の道は同じ穴の狢で皮算用なウチとは言え、都内で失踪した人間をそうそう簡単に見つけ出す事は出来ないだろう。どうしたものやら。おれは腕を組む。と、
「それに関しては心配ないわ」
 何だかやたら自信たっぷりに所長が言う。あ、なんかイヤーナ予感。
「今日は、羽美ちゃんが来てくれているから」
 その時のおれの表情を音声で表現するなら、げぇっ、だろうか。声は出ずともまさしく声帯はそれを形作っていた。もしかしたら思わず声も出ていたのかも知れないが、それは誰の耳にも届くことは無かった。なぜなら。
「いやぁ亘理氏(うじ)!!息災であったかねッ!」
 事務所の奥の扉が開くとともに、事務所内を圧倒する大音量の怒声が響き渡ったからである。
 振り返れば、そこにマッドサイエンティストが居た。
 うむ。文章で表現すれば一行で過不足無くまとまる。以上解説終わり。
「亘理氏ッ!!あまり最適化されていない脳での思考を周囲に垂れ流すのはよくないッ!」」
 せっかく一行で解説を終了したというのに、そのマッドサイエンティストはつかつかとこちらに歩み寄ってきた。
「亘理氏。嘆かわしきは書き込み不全な貴公の脳。小生はマッドサイエンティストではなく純朴な一学徒に過ぎぬと常日頃指摘しているだろう。二十三度目の指摘なのだから、いかに分裂頻度が下り坂にある貴公の脳神経でもそろそろシナプスをつないでは貰えんかねッ」
「何としたことか、歩み寄りつつそのマッドサイエンティストは、こちらの思考を読んだかのごとく奇態な台詞を吐き散らしながらなおも近づいてくる」
「さっきから台詞がもれてるよ、陽司」
「ぬはぁしまった」
 冗談はさておいて。
「いやあ羽美さん。相変わらずトばしてますねえ」
「うむッ。夏は良い。成層圏からの電波を受信しやすいからなッ」
 さいですか。
 この御人の名前は、石動(いするぎ)羽美(うみ)さんという。ここまで来れば想像はついていると思うが、彼女もおれ達『人材派遣会社フレイムアップ』のメンバーの一人だ。以前どこかで話したことがあるかも知れないが、おれ達が仕事で使うしょーもない小道具の発明と、主に電子面での情報収集、技術的なバックアップを主な役割としている。おれがいつも胡乱なアプリや音楽を詰めて持ち歩いている違法改造携帯『アル話ルド君』も彼女の手によるものだ。現在はうちの事務所に事実上就職しているが、それ以前は(よくは知らないが)アメリカの某工科大学でもちょっとは名の知れた俊英だったのだとか。
 年のころは所長と同年か若干上ではないだろうか。伸ばし放題のぼさぼさの髪。どこのメーカーのものかわからない怪しげな瓶底眼鏡を、まるで戦場に向かうハイテク兵士のゴーグルのようにがっつり装備しているその風貌だけでも十二分に怪しげだ。いかにも学者、と全身で主張するかのごとき白衣を着込んではいる。だが、地面にまで届く長い裾をずるずると引きずっているせいで、すでに下半分は白衣なのか茶衣なのか判別不能になっている。ちなみにうちの女性陣の中ではもっとも長身だったりする。ひょっとしたら直樹に匹敵するような脚長外人体型なのではないだろうか。いつも白衣に包まれている上、PCの前に座っているときは常に妖しい笑みを浮かべつつ猫背、反面、歩くときは無意味に笑いながらそっくりかえっているので今ひとつ判断がつけがたいのだが……。
「時に亘理氏ッ。困っているそうだなッ」
「イヤ別ニ困ッテイマセンヨ」
「遠慮せずとも良いッ。安心せよ。科学が無知蒙昧な徒を差別したのは十九世紀までだッ」
 あんまり根拠の無い発言をしないで欲しいなあ。とはいえ、このままではあまりにも話が進まないので、おれは今までの状況を羽美さんに話してのけた。
「そういうわけでね。ここは羽美ちゃん頼みってわけなのよ」
「石動さん。お願いします」
 さりげなくテーブルの下で真凛がおれを小突く。ヘイヘイ。ワカリマシタヨ。
「ああ、神様仏様石動大明神様っ。この卑小な知識しか持たぬ哀れな凡俗をその偉大な叡智でお救いください~」
 あまりにも見え透いたおだてにいくら何でも怒るかと思ったものだが。
「ふむぅ。ふむぅ!ふむぅ!!人探しとな!容易いッ!!小生に任せておきタマエッ!」
 この辺り、いかに知能指数が高かろうが、うちの事務所の構成メンバーたる資格は充分だと、おれは思う。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月17日 (土)10時35分

登録社員名簿:051 『二枚舌』 日下 景

「ハハハハ困りましたねぇ。努力はしますよ」

【名前】日下 景(くさか けい)
【通り名】『二枚舌』 (ライアー)
【所属】CCC
【年齢】24
【容姿】長髪で背広に身を包んだ優男/黒髪をなびかせる妖艶な女性
【正業】CCC正社員
【経歴】
 CCC所属の正社員。俗に言う忍者。

 変装術の達人であり、中性的な容貌を生かして
 軽率かつ口の軽い細身の男性、
 思わせぶりな口調の妖艶な美女の二つの顔を己の基本の装いとしている。
 真の性別が男女いずれかは明らかにしていないが、
 つきあいの長い仲間からは時々漏らす趣味関係の台詞から男として扱われている。
 
 業界にも多種多様なニンジャやらNINJAが居るが、
 幼少の頃から隠れ里で修行に励み忍びの技を身につけた正統派、
 かつ情報を操る術に長け、将来を嘱望されていた身であった。
 しかし隠れ里の大きな収益の柱となっていた忍者テーマパークが
 ライバル流派との高速道路インター誘致争いに破れたことを切っ掛けとして収益が悪化。
 その補填のため業務提携していたCCCに出向させられることとなる。 

【スキル】
『忍びの技』
 極めて正統派の忍者の技。手裏剣、煙玉、隠身等を使いこなし、
 任務ではチームの『影』として諜報に徹する。

『二枚舌』
 日下の本領。軽快な弁舌、あるいは蠱惑的なささやき、
 虚実を織り交ぜた交渉術と、卓越した変装術を生かし敵陣に混乱を巻き起こす。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月14日 (水)23時12分

人災派遣のフレイムアップ 第7話 『壱番街サーベイヤー』 14

「じゃあじゃあ、ファリスさん、せっかくだからカレーうどんを食べましょうよ!」
 
「本当ですか!それはとても楽しみです!」
 
「はいはい、じゃあ今日の昼はカレーうどんな。真凛は自分で払えよ?」
 
 
 ――学生街である。いざ昼飯となれば、安くて量が多く良心的な店はたくさんあり、むしろチョイスに困るほどだ。ファリスと真凛の希望を聞き入れ、おれ達はさして苦もなく食事にありつくことが出来た――
「……はずが、どうしてこうなった……」
 おれは目の前のテーブルに載っているどんぶりを見て、頭を抱えた。
「カレーうどん、だよ、ね……」
 カウンター席の隣で同じものを注文したはずの真凛もどんぶりに釘付けになった視線を逸らすことが出来ない。そこにあるのは黒色でごく標準的な大きさの、麺を盛るためのどんぶりであり、中に収まっているのは程よく茹で上げられたうどん、のはずである。
 だが。

 赤い。
 
 赤いのだ。
 
 緋色(スカーレット)、鮮紅色(クリムゾン)、いや、もはや赫(クェーサー)と表現すべきであろうか。漆黒のどんぶりの中に、マグマのようにどろりと重く赤い油が流し込まれ、白いうどんを呑み込み覆い尽くしている。目をこらせば、油の正体はカレーであり、その赤灼した色は、なんかコズミックでケミカルな密度で濃縮された唐辛子などの各種スパイスによって構成されていることが判じられるだろう。その上にはブロック状の豚肉が乗せられており、脂がとろけそうなまでに赤辛く煮込まれたそれは、大気すらまだない始原の星に、天から投じられた巨大な隕石(メテオ)を連想させた。
「陽司、ボク、カレーって黄色いものだと思ってたんだけど」
「その解釈で合っている。これは例外だ。……とびきりのな」
「はーイ、ナロック特製レッドカリーうどん三つお待ちしましタ~」
 硬直するおれ達の横で、高田馬場の名物タイ料理店『ナロック』の店長さんがトレイ片手に屈託のない笑顔を浮かべた。
 カレーうどんを食べるべく学生街に繰り出したおれ達だったが、目星をつけていた店はいずれもランチタイムを終えて夜に向けて仕込中だった。スケジュールにあまり余裕のなかったおれは深く考えず、『アル話ルド君』で適当に検索をかけ、「近場で他にカレーうどんを食べられる店」と打ち込んだナビに従いを入店したところで、ここが『ナロック』だった事を今さらに思いだしたのである。
 高田馬場に最近出来たタイカレー店、『ナロック』。特筆すべきは、辛口で有名な本場のタイカレーすら上回るほどの、唐辛子を中心としたスパイスを遠慮仮借なくぶちこんだ一切妥協のない炎のような激辛レッドカリーである。その辛さは凄まじく、珍し物好きで体力だけはある新入生達が度胸試しで食いに行っては、何割かがぶっ倒れるのが恒例行事となりつつあるとの事だ。
「まさか新メニューでカレーうどんを始めていたとはなぁ……」
 『カレー屋』で探していれば即座に気づいていたであろうに。我ながら今ひとつ迂闊なこのデジタル思考を呪いたくなる。
「なんか凄そう、だね……」
「ま……まぁ、美味いって評判だし、とりあえず食べるとしようか」
 どんぶりから立ち上る湯気が、ひりひりと肌を刺すのは錯覚ではあるまい。おれ達は覚悟を決めて割り箸を手に取ると、厳かに宣誓した。
「いただきます」
 先陣を切ったおれは灼熱の海に箸をつっこみ、うどんをひきずり上げて啜り込む。その瞬間、刺激性の強い高温の空気が呼吸器系に流れ込み、
「ぶっほごふっぶむっ!?」
 おれは盛大にむせた。
 むせた瞬間にうどんつゆ、というかカレーが鼻腔に飛び込み、高濃度のカプサイシンが鼻粘膜をダイレクトに焼いた。肺から空気を排出する反射行動と、刺激物を押し戻すべく空気を吸入する反射行動とが相反し、錯乱した横隔膜がみぞおちの奥でへたくそなタップダンスを踊った。
「ちょっ、だ、大丈夫!?」
 椅子の上でのたうち回るおれの背中を慌てて真凛がさする。おれはそれにかろうじて左手を挙げて応え、どうにかパニック状態の呼吸を落ち着けると、コップの水を慎重に飲み込んだ。
「――――はぁ、はぁ。……強烈だな、これは」
 一分ほどの深呼吸でようやく平常心を取り戻し、おれは感想を述べた。まだ鼻腔と舌先に爛れるような刺激が残っている。胃のあたりにはかっと熱いものががわだかまっており、この辛さが単なる味覚の刺激にとどまらず、人体に重大な影響を与えうるものだと言うことを示している。
「うっあ、これ、ホントに辛いね……!」
 撃沈したおれに倣う愚を犯さず、レンゲにすくったカレーをひとなめした真凛が眉をひそめる。おれ達は顔を見合わせると頷き、箸を置いた。普段ならともかく、今日は激辛カレーで度胸試しをしにきたわけではない。お店の人には悪いが、店を変えてもう少し無難なメニューを食べた方が――。
 ずる、ずるるずるるるるる。
 豪快な音がとどろき渡る。反射的におれはその方向、つまりは反対側の隣の席を振り返った。
「これが日本のカレーうどん……。とても美味しいですね!コシのある麺にスパイスの効いたスープが調和していて、とても食べ応えがあります!」
 ずるるるる、ずるるるーッ。
「……」
 唖然として見守るおれ達の目前で、月光のような銀髪を備えた褐色の美姫の桜色の唇へ、白いうどんと灼熱の汁が新丹那トンネルに突入する東海道新幹線のごとき勢いで啜り込まれてゆく。おれ達の視線に気づき、ファリス・シィ・カラーティは赤面して箸を置いた。
「あ、あのすみません、日本ではおうどん、おそばを食べるときは音を立てるのが作法と習っていたのです。不作法でしたでしょうか?」
「ああいや、そこは全然問題ないのだが」
「辛くないんですか?」
「確かに辛いです。ですが、様々な辛さが素晴らしいバランスでまとまっているので、不快な辛さではなく、むしろ麺自身の味を引き立てる形となっています。日本にここまで香辛料を扱えるお店があるとは驚きです」
「そ、そういうものなんですか?」
「ふむ……」
 そう言われると、おれも未練が湧いてくる。実のところ、先ほどの辛さはまだ舌先に残っているが、決してまずいわけではなかった。鼻を灼いた強烈な刺激も時間が経つと、鮮明な香りとして感じられるようになっている。気を取り直して、おれは慎重に麺をすくい、再びすすった。
「……!、やっぱ辛い、けど、結構イケる、な」
 まぶしい光の下で何も見えない状態から、段々目が慣れると周囲の状況が解るように。舌が慣れ、辛いだけとしか思えなかった中から徐々に微妙な味の判別できるようになってきていた。なるほど確かに、このレッドカリーが決してただ強い刺激を求めたキワモノではなく、厳然とした一品の料理であるということが理解できる。なるほど、競争の厳しい高田馬場の学生街を、ただ辛いだけで生き残れるはずがない。激辛でありながら絶妙のスパイスの構成、とろける豚肉との組み合わせ。辛い辛いと言いつつもやめることが出来ず完食してしまう者が後を絶たない悪魔のカレーという評判も、今なら納得だ。
「あまり冷たい水は飲まない方がいいと思います。辛さが長引くので」
「アドバイスサンキュー。……へぇ、だんだんイケるようになってきた。この角煮、柔らかい上に味がきっちり染み渡っていて極上だ」
「おいしいですよね?」
「あぁ。美味いね」
「う~ん、でもボクはやっぱり苦手かなぁ」
「まぁ、お前にはまだちょっと早いわな。無理しなくていいぞ。別の頼むか?」
 もともと味覚というものは年齢によって変化する。甘いチョコレートやコーラが大好きだった子供が、大人になるにつれ辛い酒だの苦いモツ鍋だのを好むようになるのもそのせいだ。――と、ここまで思考した時点で後悔した。どうせコイツのことだ、子供扱いするなとか、また店の中でわめき立てるに相違あるまい。
「……いいよ。頼んだんだから、ちゃんと最後まで食べる」
 だが、真凛はそれだけ言うと、積極的に箸をつけてうどんを啜り始めた。むぅ、辛いものを食ったせいで喋る気が失せたか。
 
 ランチタイム後の客の少ない店内に、男女三人がうどんを啜る音がしばし響く。三者三様、どうにか激辛うどんをあらかた食べ終える。摂取した高濃度のカプサイシンが、腹に収めたうどんが今まさに消化器官のどこにあるかを雄弁に主張していた。人心地つくと、おれ達の話題は自然とこれからの予定についてのものへと移った。
「今日はこれから学校見学して、『鍵』を探すのは明日から?」
「まぁそうなるだろうな。『鍵』が見つかるまでファリスはウチの事務所に泊まって貰うことになるけど、かまわないかい?」
「かまわないどころか!お礼を申し上げなければなりません。本来ならホテルに泊まるべきなのに」
「気にしない気にしない、どうせ最初に君が払った依頼料に宿代も込みだろうからね」
 彼女を護衛しつつ『鍵』の捜索。なるほど確かに大仕事である。
「でもさぁ」
「あん?」
「何日ぐらいかかるんだろう?ボクも毎日ってなると、その、学校が」
「そこなんだよな」
 ひりつく舌を労りつつ、おれは朝からドタバタ続きだった状況を整理する。
「結局の所、『鍵』があるのは日本のどこか。日本と言っても、北海道から沖縄、離島だってある。それこそ九十九里浜でダイヤモンドを一粒探すようなもんだよ」
「なんで九十九里浜?」
「気にすんな。そしてもう一つ、『鍵』が日本にあるという情報そのものの真偽。まぁ、セゼルがこんな凝った嘘をわざわざつく理由もないとは思うが、数十年前に隠した暗号が、まだこの世にちゃんと形として残っているという保証もない」
 実は考古学なんかの世界では、”宝の地図”というものは割と見つかるのだ。貴重な遺跡の所在地を記した文献や、貴族の屋敷跡から発掘された財産の目録など。だが現実は散文的なもので、そもそも文献の情報そのものが、当時の噂や伝聞をもとに書かれた誤りであったり、確かに当時はそこに財宝があったものの、数百年前の火災でとっくに焼失していたり。”宝の地図”を正しく解いても、宝にたどり着けないことの方が圧倒的に多いのである。先日の幽霊騒ぎでもあったが、『探す』任務でいちばん厄介なのは見つからないものを『ない』と証明することだ。ファリスも何時までも日本に滞在するわけにはいかないだろうし、ウチもあてどもない捜索をずるずる続けるわけにはいかない。
「それは、確かにそうですが」
 口ごもるファリス。おれはしばし彼女の表情に視線を置く。彼女の言葉は続かなかった。――いい機会、か。
「まぁ、それはこっちで何とかするよ。それよりもう一つ、もっと重要で根幹的な問題がある」
「なん、でしょう?」
「……おれが口を出していいものかどうかは、わからないけど。たぶん、依頼に取りかかる前に、この問題はクリアしておく必要がある」
「どういうこと?陽司」
 不思議そうにおれを見る真凛とは対照的に、視線を赤いカレーうどんに落とし沈黙するファリス。おれは腹に一つ力を入れ、いずれしなければならない話を、ここで切り出すこととした。
「仮に『鍵』が見つかり、暗号が解け、ルーナライナの最後の大金脈が見つかったとして。……それで、君の国は救われるのかい?」
 ファリスは頭を上げなかった。
 そう、この聡明な王女が、そもそもこんな簡単な問題に気がつかないはずがないのだ。
 視線を落としたまま、膝の上に置いた両の拳を、微かに震わせた。
 
 根源的な問題。
 もしも、最後の金脈の在処が彼女の国にもたらされたとしたら、何が起こるか。
 何も変わらない。分裂した諸勢力は歓喜の声を上げて金脈に殺到し、銃でその土地を奪い合い、勝ち取った者がまた、老若男女を問わず民衆を奴隷のように働かせ採掘させるだろう。金鉱が何年持つのかは解らないが、それで終わりだ。黄金は同胞を撃ち殺す銃と引き替えに諸外国に吸い上げられ、ルーナライナには凶器と廃墟と死体と怨恨しか残らない。
「君はおれ達に、『鍵』を見つけて、ルーナライナを救って欲しいと言った。でも『鍵』を見つけてもたぶんルーナライナは救えない、んじゃないかな」
 なるべく言葉を選んでいるつもりだが、彼女を傷つける事になることも覚悟していた。結局のところ彼女の依頼は、一つの国の内戦を収めて欲しいということでもある。そして、身も蓋もないことを言えば、しょせん遠く離れた日本の学生バイトになど解決できるはずがないのである。例え、おれ達に今以上に常人離れした力があったとしても。
 だからここではっきりさせておかなければならない。『鍵』を見つけることが国を救う事にはならないという事を。おれ達に出来るのは『鍵』を探すことまでだという事を。国の危機を救うのは、通りすがりの冒険者ではない。国を支配する者と、その国で生きる人々でなければならないのだ。魔王を倒したり伝説の秘宝を手に入れることでは、現実の戦争は終わらせられない。
「……隠された『鍵』を見つけて、ルーナライナを救って欲しい、というのは父の命令でした。それは間違いありません」
 しばりの沈黙を、ファリスが割った。
「対となる『鍵』も確かに、父から受けとったものです。でも、父はこうも言っていました。……見つかるまで、帰ってこなくていい、と」
「帰ってこなくていい?ちょっとそれって……」
 ひどい、と言いかけた真凛が口をつぐんだ。そう、ひどくはないのだ。今の彼女の故郷の状態を思えば。
「父も、この金脈の在処をそこまで信じていたわけではなかったと思います。私が見つけられる可能性も。私を海外に逃がす口実と半分半分。たぶんそんなところじゃないでしょうか」
「ファリスさん……」
「父の意志にはすぐに気づきました。成功は期待されていない、ということも」
 寂しげに笑う皇女。
「なら、受けないことも出来たかもな」
「……はい。もしかしたら、断ってルーナライナに残ることも出来たかも知れませんね……」
「でも、結局君は日本に向かうことにした。それはなぜ?」
 おれの質問に、彼女は驚いたようだった。もしかしたら、彼女自身も己にその問いかけをしたことがなかったのかも知れない。
「……あそこに居ても、私に出来ることは何もないんです」
「それは、どういう意味かな?」
 おれは意図的に、反応をシンプルなものへと絞っていった。彼女に必要なのは、たぶん、自問自答のための、鏡だ。
「王族の仕事は、その立場を利用して国の役に立つことです。その財力を利用して産業を興したり、文化を保護したり、国の広告をしたり」
 真凛がおずおずと手を挙げた。
「あのぅ、お姫様ってこう、お城の中でおいしいご飯を食べて、毎晩舞踏会をしてるものかなあ、と」
「お前それ、幼稚園の頃読んだ絵本のイメージしか頭の中にないだろ!?」
 ちなみに食事や舞踏会も、人脈を築くという重要な仕事の一つである。パーティーを仕切り、人を人に紹介したりするホストとしての器量が求められ、なまなかな実力では務まらないのだ。
「学生時代に懇意にさせて頂いた他国の皇族の方にも、そうして社会で活躍している人がもう何人も居ます。……私には、いずれもそれらの力はありません。皇女などと言っても、人を動かす権限も、国のお金を使う権限もないんです」
「でも、『鍵』を探すことなら出来る。そういうことかい?」
 おれの言葉に、彼女はしばし考え、そして静かに頷いた。
「そう、ですね。『鍵』を見つければ、少なくとも、金鉱が尽きて国が崩壊するまでの時間を稼ぐことは出来るはずです。城の中に残って何も事態を打開できないよりは、まだまし。そう考えたのかも知れません」
 瞑目し、言葉を紡ぐ。
「それに、……そう、私に『鍵』を使いこなすことが出来なくても、叔父様達にだけは渡すわけにはいきません。彼らの手に落ちれば、亘理さんの言うとおり、さらなる内戦の火種になるだけです。それだけは――見過ごすことが出来ないんです。だから、私は『鍵』を手に入れなければならないんです」
「――そっか」
 おれは両手を頭の後ろで組んで、天井を見上げた。
「やっと、君の顔が見えてきた気がするな」
 わざと意地の悪い笑顔を作ってみせる。
「……私も、国を出てから今の今まで、自分がどうしたいのかが自分でも解っていなかったんです。でも。貴方に話をしているうちに、少し整理がついてきました。ありがとうございます」
「礼を言われることじゃないさ。判断に迷う時、他人との会話で自分の意見を整理するのは有効な手段だ。――これで決まりだな。まずはとにかく『鍵』を見つける。颯馬や玲美さんに取られる前にな。その上でそれをどう使うかは、ファリス、君の判断次第だ」
 そういうと、おれは彼女の前に右手を差し出した。
「あの、亘理さん……?」
 目を丸くする皇女殿下。
「本来ならまだ君くらいの年なら、そこまでの責任はないはずだ。でも君が現状でやれる事をやろうと思う、その姿勢に敬意を払う。……偉そうな物言いでごめんね。雇われの身だけど、おれでよければできる限り力になるよ」
 正直、アイテムを手に入れれば国が救える、程度の認識しかないようなら、必要最低限の役割を済ませて、日本に留まるなり帰国するなりを選んで貰おうとも思っていたりしたのだが。……まぁ、頑張ってる子は応援したくなるじゃないか。
「よろしく、お願いします」
 おずおずと腕を伸ばすファリス。
「よろしく」
 おれ達は握手を交わした。皇女の手は少しつめたく、柔らかかった。
「……ねぇ」
 横からのぞっとするほど平坦な声。おれが思わず振り返ると、真凛が恐ろしく思い詰めた表情でこちらを見つめていた。
「な、なんだよ」
 真凛の顔色は蒼白。さっきまでの闊達さが消え失せ、なんだか泣き出しそうな目をしている。
「い、言っておくが今回は下心はないぞ、もともとおれは年下に興味は――真凛?」
 おれ達に向けた視線が機械的に下へとかしぎ。
 ごとん、と。
 七瀬真凛はテーブルに突っ伏したのであった。

 
「……大丈夫かおい?」
「う……うん、大丈夫だいじょうぶ、へいきへいき」
「脂汗を垂らしながら言っても説得力ねぇぞ」
 口では平気と言いながら一向に椅子から立ち上がる様子を見せない真凛。こりゃどう見ても、アレだな。
「――ここ痛いか?」
アバラと下腹の境目あたりを、かるく指で押してみる。
「ぴゃあ!?」
 感電したように身体を震わせる真凛。どうも当たりらしい。
「こりゃ腹じゃなくて胃だな。あんまりにも辛いものを食ったから、胃壁に刺激が来てるんだろう」
「病気などではないのですか?」
「素人見立てだが、安静にしていれば問題ないと思うけど」
「良かった……。でも、どうしましょう?」
「救急車を呼ぶほど大げさではなし、かといって家や事務所に連れ帰るには大変、か。……すみませーん」
 困ったときはその場の責任者に聞けば、それなりに解決方法を知っているものである。
「はーイ?」
 店の奥からさっきの店長さんが応じる。すると彼女は真凛を一目見るなり、
「もしかしテ、お腹痛くなったですカ?今、お水と薬もってきまス」
 そう言って、店の奥に薬を取りに戻っていった。ファリスが真凛の背中をさすり服装をゆるめ、おれは他のお客さん達に簡単に事情を説明しお詫びする。こうして、おれ達の午後の予定は大幅な軌道修正を余儀なくされることとなったのであった。
 粉末の胃薬をぬるま湯で流し込んで十分ほど経過すると、脂汗は止まり、真凛の体調は明らかに上向きになったようだった。だが未だ腹を抱えてグロッキー状態のままであり、到底動けそうにない。いざ戦闘となればヘビー級ボクサーのボディーブローに耐え抜く腹筋も、内側からのダメージにはなんら役に立たないらしい。
「ごめん……また足引っ張っちゃった……」
「いや、おれも悪かった。もっと無難な店にすべきだった」
「ううん、ボクが調子に乗って食べたからだよ……」
 とはいえ、そんな調子でいられると、多少はこちらにも思うところはある。
「すまん」
「謝らないでよ……」
 微妙な沈黙。うむむ、いつぞやの反省を踏まえ、今回は素直に非を認めているつもりなのだが、何故こうなるのか。
 と、ファリスの腕時計からひとつ、小さなアラームが鳴った。
「あっ」
 時計を覗き込んだファリスがちょっと気まずそうな表情になる。律儀な彼女はサホタ達との約束の時間に合わせ、タイマーを設定していたのだった。
「亘理さん、ここは一旦出直した方がよいのではないでしょうか」
 それを耳にした真凛が、力なく遮る。
「いいよ……ボクここで休んでいくから……二人はサホタさんとこ、行ってきて……」
「さすがにまずいだろうそれは」
 置いていくのも問題だが、お店にも迷惑がかかる。
「かまいませんヨー、これからディナーに向けてお店一旦しめますかラ」
 見れば店長さんの手には派手な刺繍の施されたブランケットと枕があった。おれが何か言う前に手早く真凛にかぶせ、そのまま座敷に寝かせてしまう。
「初めてウチのカレー食べた人、よくこうなりまス。薬飲んで二時間くらい休めばだいたいヨクなりまスから」
 ニコニコと笑う店長さん。どうも本当にこんな事態には慣れっこらしい。
「……すみません、それじゃあ、ちょっとお願いします。じゃあ大人しくしてろよ真凛、終わったら戻ってくるからな」
 出来れば一日浪費したくないというのは事実だ。ここは店長さんの好意に甘えておくべきだろう。
「……うん、気をつけて」
「いやまあ、特に気をつけることもないんだが」
 ブランケットにくるまって手を振る真凛に軽く手を挙げて応え、おれとファリスは店を後にした。
カテゴリー:_小説7話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月13日 (火)23時46分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 6

「ああ~。ボクもその場に居合せればなあ!」
 昨夜の襲撃から明けて午前8時。一晩休んで鋭気を養いしきりにテンション高く口惜しがる真凛とは対照的に、おれと直樹は目の下にどんよりとした雰囲気をたっぷりと湛えて沈み込んでいた。結局あの後、暗闇の中二人がかりでモップがけしたのである。どうにか元通りになった頃にはすっかり夜が明けており、オマケに朝一番で管理人さんから電話で懇々と注意されたりして殆ど寝られなかった。ちなみに今朝も爽やかな夏空ががっつり広がっており、すでに辺りはセミの大合唱で満たされている。
「はいこれ。頼まれた朝ご飯と、電球。型番これでいい?」
「サンキュー。じゃあさっそく取り付け手伝ってくれ」
「あいあい、さー」
 おれと真凛が昨夜砕かれた電灯を応急処置している間に、直樹はスイカに水をくれている。ゆうべのドタバタ騒ぎも我関せずとばかりに、今日もスイカ君たちはひたすらすくすくと育っているようだった。
「何はともあれ、だ」
 おれはよどんだ頭を二、三度振ってどうにか正気を保つと、昨日の出来事を改めて真凛に説明する。
「物騒になってきたね」
 そういうセリフはもっと深刻そうに喋れ。
「原因はやはりこのスイカ、か?」
 直樹が大玉のスイカを一つ、撫でて一人ごちる。
「今のところそれ以外に心当たりはないわけだが」
 おれは一つ首を捻る。
「取り得る選択肢は二つだ。何はともあれこのまま留守番を続けるか」
「襲ってきた敵の正体を調べるか、でしょ?」
「やっぱりそうなるよなあ」
 おれは肩をすくめる。やる気満々の真凛はもとより、昨夜不意打ちを受けた直樹もこのまま黙って済ますつもりは毛頭無いようだ。昨日まで儚く抱いていた、ごろごろ寝ていてオカネがもらえるという甘い夢想はこれで完璧に潰えることとなったわけだ。まあいくらごろごろ出来ても、夜のうちにあの黒い男に寝首を掻かれてしまったりするとさすがに楽しすぎるので、ここはおれとしても腹を括るしかない。ちなみに直樹の傷の方は朝がくるまでにはほとんど良くなっていた。服には何かを穿ったような小さな穴が開いていて、野郎は散々文句を言っていたが、結局このまま着続けることにしたようだ。
「とにかく。もう一度所長にかけあって今回の依頼の詳しい情報を聞かせてもらおう。そこから少しずつ、こちらの背景を探っていくとしようや」
 おれは一つ手を打ち鳴らした。それならそれで、まずは朝飯だ。真凛が持ってきてくれたコンビニのパンを並べてゆく。ささやかな朝食を始めようとしたその時、おれの携帯が鳴った。相手は所長だった。丁度いい、改めて今回の依頼の経緯を問いただしてくれよう。そう思いつつ交わされる二言三言の他愛の無いやり取り。だが、先制攻撃は向こうから来た。
「依頼人が消えたぁ!?」
 朝飯がわりのパンを危なく噴出しそうになりながら、おれは携帯に向かって怒鳴った。
『うーん。ちょっと困っちゃったわねえ』
 電話向こうの所長の声は呑気極まりない。おれ達が事の顛末を報告し、調査を行いたいと提案した事に対する回答がこれである。
「どういうことっすか、それ」
『任務の都合上、依頼人とは定期的に連絡を取らせてもらってるんだけどね。今日の朝から連絡がつかないのよ』
 職場の方に問い合わせても今日は不在だという。おれは深々とため息をついた。
「改めて話してもらえませんかね、所長。今回の依頼について」
『わかったわ。こうなった以上、守秘契約の特記事項に該当するしね』

 そもそも今回の依頼人は『笹村周造』氏である。これは間違いない。所長の話によれば、彼は三十後半のいかにも技術者と言った雰囲気の男性であったそうだ。彼は唐突に事務所を訪れてこう告げたのだという。『これから四日間、自宅を不在にするので、留守番をお願いしたい。誰が来ても、何が届いても、決して部屋には入れないでくれ』と。
 彼が指定したのは保証金コース。つまり『事前に充分な依頼料を払うかわりに、一切素性や理由に干渉しない』というモノである。彼はここ数日全く自宅に戻っておらず、かつ今後もしばらくは戻らない予定だとの事だった。所長は前金と保証金を受け取ること、定期的に携帯電話で連絡を取り合うことを条件として契約を締結したのだそうだが――
「結局ほとんど何も調べないまま引き受けちまったワケですか」
『充分ワケアリだとは思ってたけどね。まあ亘理君と直樹君なら大丈夫だろうし』
 からからと笑う所長に殺意を覚えたおれは許されると思う。
『それでももちろんウラは取ったわよ。笹村氏の個人的なデータも調べさせてもらったけど、特に財政上……借金や投資の点では全く問題は無かったわね』
 家族関係や職場での人間関係もまず良好で、トラブルに巻き込まれる理由はなかったという。
「となると。残る理由としては」
 おれは部屋に鎮座ましましているスイカ殿の群れを見やる。
『そういうことになるわね。笹村さんの職場はご存知、クランビール株式会社。スイカの栽培とくれば、清涼飲料かデザートがらみ、と考えるべきかしら』
 クランビール。こりゃまたメジャーな名前が出てきたものだ。
 
 クランビール株式会社。世界的にも著名な企業である。日本人にもっとも愛飲されるブランドの一つ『クランビール』を主軸とし、ワイン、ウィスキー各種も販売する大手飲料メーカー。取り扱うのはアルコール類だけにとどまらず、炭酸飲料やジュース、はたまたその原料でもあるフルーツの輸入や栽培も行っている。一部ではそれらの食材を使ってレストランのチェーン店の経営まで手がけている。ちなみになぜおれがこんなに詳しいかといえば、クランビールは大学生(とくに女性)にとっては人気の高い企業であり、一年生の頃、就職活動中の先輩に頼まれて昼飯と引き換えに色々と調べて周ったことがあったからだったりする。
『クランビールは日本と世界の各地に工場を持っているんだけどね。農場や果樹園も企業として所有して、お酒やジュースの原料となる麦や果物そのものの品種改良にも力を入れているの。都内にも研究所を建てていて、彼はそこで技術者として採用されているわ』
 ふうむ。おれは独りごちた。
「所長。うちって知財の方に伝手ありますよね」
 もちろん見えるわけも無いが、電話口の向こうで所長がにやりと笑った気がする。
『当然。今、来音ちゃんに当たってもらってるわ。何か判ったらすぐ知らせてくれるはずよ』
「了解です。となると、やはり研究所が怪しいかな?」
 とは言いつつもおれは首を捻る。新種のスイカを巡って争いがある。それはわからんでもないが、殺し屋までやって来るというのはいくら何でもしっくりこない。それで殺されてやらねばならんほどおれの命は安くない、と思う……のだが。最近おれのブランド相場が下がっているからなあ。
『研究所に関してのデータもそれなりに集めてあるわ。だけど、正直な話これと言って面白い話は無かったわねえ』
「なんか変な研究をしてたとか。他人には言えない秘密があったとかは?」
『さっきも言ったけど、職場での彼の評価はごく上々よ。仕事もいくつかのプロジェクトを兼任していたみたいだけど、いずれも内容はともかく、主旨はハッキリしたものだったわ』
 内容が明かせないのは企業秘密なのだから当然だろう。その反面、主旨がハッキリしているのはまっとうな仕事なのだからこれも当然だ。特に不審な点は無い、か。おれが電話越しにしばし考えていると、所長が言う。
『どうせそこに居たって落ち着かないんでしょ?こっちでも可能な限りデータを集めてるから、まずは事務所に戻ってきなさい』
 それもそうか。おれは珈琲をすすり、直樹と真凛にその旨を告げる。二人とも頷いた。
「部屋の留守番はどうしましょうかね」
『話を聞く限りでは、おおっぴらに昼間から暴れられる手合いでもないみたいだし。直樹君一人でも大丈夫でしょう』
「直樹さん、いいですか?」
「俺は一向に構わんよ」
 おれも流石に少し外に出たかったので異存はなかった。何しろエアコン効かせ過ぎ、かつ野郎と同室ではゆっくりごろ寝も出来ないというもの。おれと真凛は荷物をまとめて部屋を出ることにした。と、直樹が声をかけてきた。
「亘理」
「何だよ」
 琥珀の瞳が異様な真剣味を帯びている。どうもコイツのこういう顔は苦手だ。
「貴様に一つ、頼みがある」
「……わかったよ。聞いてやる」
 こう言わざるを得ないあたり、腐れ縁も極まれりというものだ。と、直樹はおもむろに自分のカバンと、あの大箱をスイカの海から掘り出してきやがった。
「いつ乱戦になるとも知れぬ場所だ。我が姫君達の護衛を頼むぞ」
「……今度昼飯オゴれよ」
「ああ。先日オープンしたばかりのいい店を知っている。貴様も連れて行ってやろう」
 結局異存ありまくりのまま、部屋を引き揚げるハメになった。ちなみに後日、奴の紹介で秋葉原の某ビルにオープンした某メイド喫茶を訪問し、そこでまた神経が磨り減るような思いをすることになるのだが。それはまた機会があれば語ることもあるだろう。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月13日 (火)23時24分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 5

 あれやこれやで真凛が帰ってしまうと、あたりはすっかり夜になってしまった。この部屋にはテレビがないので、おれは違法改造携帯『アル話ルド君』にぶちこんだ音楽を鑑賞しつつ、相変わらずエアコンの稼動する部屋の中で小説を読みふけっている。直樹はといえば買い込んだ本を読み漁るのに忙しいらしく、こちらの方を見向きもしない。典型的な学生が友人宅でまったりする時のモードだった。直樹はすでに夕飯を済ませていたので、おれだけがコンビニで買い込んであった弁当を、部屋にあった電子レンジで加熱して食べた。侘しい食事だが、一人暮らしなんて所詮はこんなものである。ああ、どこかにおれに夕ご飯を作ってくれる優しいお姉さんは落ちてないかしら。出来れば黒髪ロングのストレートで細面だとなお良し。
「お前のところはいいよなあ。美人のお姉さんと二人暮しでよぉ」
 こいつにはお姉さんが一人いて、名を笠桐・R・来音《らいね》さんという。こちらは弟以上の超美人、しかも頭も良くて気立ても良し、さりげなく男を立てるという、おれ的に嫁にしたい度数ぶっちぎりトップのステキな女性なのだ。ちなみにここ最近は別件で席を外しているが、普段は浅葱所長の秘書として事務所で辣腕を振るっておられる。
「貴様はアレの本性を知らないからそういうことが言える」
「身内だからといって不当に評価するのは良くないぜ?」
「そういう事ではなくてだな」
 そんな会話を続けながら、さらに時間は過ぎてゆく。部屋に帰るまで待ちきれなくなったのか、直樹が大ぶりなノートPCを引っ張り出してきて、『サイバー堕天使』を再生し始めた。おれは最初は横目に見つつ小説を読んでいたのだが、だんだんそっちの方に興味が移ってきて、結局二人して各所にツッコミを入れつつ鑑賞してしまった。気がついてみれば、すでに時計の針は午前1時を周っていた。
「さあて」
 事ここに到るまで先送りにしていた問題を解決せねばならない。つまるところどうやって寝るか、という事である。交代制とは言え三日間も続く任務となれば、仮眠を取ることを考えざるを得ない。一応アウトドア用の防寒シートを持参しており、床で寝るくらいは大した労ではないのだが、このスイカの海の中ではろくにそれを広げる場所も無い。
「というか、貴様と添い寝なぞ死んでも嫌だぞ」
「そういう思考が湧き出てくるてめえと一緒の部屋に居ること自体おれは嫌だ。だいたいてめえはもともと夜型だろうが。なんで夜寝るんだよ」
「つい昼ぶかしをしてしまうのでな。学生生活の悲しいサガというものよ」
 こいつは某PC関係の専門学校生でもある。卒業の暁には晴れて姉と共にフレイムアップの正社員に就職するのだとか。
「知ったことか。だいたいおれは朝から調子が良くないんだ。さっさと寝させてもらうぞ」
「たわけめ。どうせ今日一日部屋の中で呆けていたのだろう。たまには働け」
 おれ達があーだのこーだの騒いでいると。
 とんとん、と。
 間抜けなノック音が、深夜のマンションに響き渡った。
 
「…………」
 おれ達は顔を見合わせると、声を消した。おれは抜き足差し足でインターホンまで移動し、画面を確認する。エントランスに人影は……なし。直樹に合図を送る。直樹は一つ頷くと、玄関に向かって歩を進めた。
 オートロックマンションとはいえ、本気で忍び込もうとすればエントランスを潜り抜ける方法はいくらでもある。今も昔も防犯装置の真の役目は『その気にさせない』事にあるのだ。という事は、この玄関までたどり着くこと自体、明確な意図を以ってなされたことになる。直樹、気をつけ――
 鈍い音がひとつ。ドアに接近するまで、直樹とて充分に警戒していたはずだ。いきなりドア越しに消音銃を叩き込んでくるような輩もいないわけではない。その直樹にして、完全に不意をつかれた。
「……ちぃっ!!」
 直樹が飛び退る。いや、あれは飛び退ったのではない。半ば吹き飛ばされたのだ。細身とはいえ、長身の直樹を吹き飛ばすなど並大抵の衝撃では不可能のはず。それに妙だ。扉そのものには何の衝撃も音も無かったというのに!たたらを踏んで留まる直樹。スイカの海にダイブすることだけは辛うじて避けたようだ。硬質の音を立ててドアが開く。これも、扉の向こう側からカギをこじ開けたのではない。例えて言うなら自然に開いたかのような。しかしその時はそれを気にとめる余裕も無かった。何しろドアが開き、侵入者が姿を露わにしたので。
 明かりの元に踏み込んできたその姿は、このクソ暑い熱帯夜にも関わらず、黒いハーフコートを羽織っていやがった。ズボンも黒。ついでに目深に被ったハンチング帽、両手にはめた皮手袋も黒。顔は陰になって確認できないが、恐らくは何がしかの覆面を被っているだろう、とおれは当たりをつけた。体格は間違いなく男。長身の直樹にも勝るとも劣らない上背も相まって、異様な迫力を醸し出していた。
 男が歩を詰める。突進先は言うまでもなく直樹だ。恐らくは、先ほどのドア越しの先制攻撃で手ごたえに不足を感じたのだろう。トドメを刺す気だ。男が手袋に包まれた右手を振り上げる。
「注意一秒怪我一生」
 おれの声に男は一瞬気を取られた。事前にあれだけ騒いでいたのだ、二人目が居る事は奴も当然予想していただろう。問題はおれの声の方向にあった。すでにその時、おれはとっくにインターホンの前から移動し、ドアの脇に回りこんでいたのである。金と力が無いのは抜け目の無さでカバー。玄関口に掃除用具が収納されていたのは確認済みですよ?
 おれの得意コース、内角低目から三遊間をぶち抜くライナーの要領でフローリング用のモップをフルスイング。ステキな音を立てて男の胴に打撃が叩き込まれた。が、
「……頑丈なお体ですこと」
 おれの手に返ってきたのは、プラスチックの柄がへし折れる音と、電信柱をぶったたいたような硬質の手ごたえだった。ダメージが通ったとは到底思えない。男はおれに振り向き、今度は左手を掲げる。――ちっとこれは、ヤバイかな?自分でも顔が引きつるのが判る。帽子の奥から男の視線がこちらの眉間の辺りを捉えているのが感じられた。男が左の指先をこちらに向ける。その時、素人のおれでもはっきりと感じとれた。男の掌から、何か異様な殺気が放射されるのを。男は素手ではない。なにか、この体勢から『放つ』武器を持っている……?
 が。
「全身が鋼鉄などという人間はな。この世に俺が知る限り一人しか居ない」
 強弓から放たれた矢のような一撃が、横合いから男の喉に突き込まれ、そのまま部屋の隅へと弾き飛ばした。男の横合いから攻撃をしかけたのはもちろん直樹。ベランダ掃除用のブラシを構え、一歩前に進み出る。こちらもプラスチックの柄だが、人体の急所を狙った突きであればその破壊力はあなどれないという事だ。
「さっさとしやがれ、ビビッたじゃないか」
 おれは憎まれ口をたたき、折れたモップを放り捨てて直樹の後ろに周る。
「精神年齢を若く保つコツは、刺激のある毎日を送ることだそうだぞ」
 言いつつも、倒れた男から目を離さない。
「……大丈夫かよ」
「かすり傷、というには少々きついがな。致命傷ではない」
 シャツの一部が破れ、赤いものがにじんでいるのが認められた。だが今はそんなことにかまっている暇は無かった。男が恐ろしい勢いで腹筋を収縮させ跳ね起きると、直樹に向かって右手を振りぬいたのだ。先ほど扉越しに直樹を打ち抜いたあの技か。だが一撃目と異なり、今度は直樹の方にも準備が十分出来ている。何かはわからないが、右手から一直線に放たれた攻撃をかわし、すでに懐に入り込んでいた。両手に短く握ったブラシの柄が、男の鳩尾に深々と食い込む。そして開いた間合いにねじ込むように逆手を振りぬくと、ブラシがさながら槍の石突のごとく撥ね上げられ、男の顎に叩き込まれた。さらに開く間合い。すでにその時、直樹は魔法のようにモップを旋回させ、サーベルのごとく持ち替えている。長く構えられたブラシが一閃。再び刺突が男の喉を抉る。ど派手な音がして、男がキッチンになだれ込んだ。深夜のマンションで騒ぐと近隣からの苦情が怖いんだがなあ。
「お前いつのまにそんな技マスターしてたんだよ」
「杖術など紳士の嗜みの一つに過ぎん」
 男が再び起き上がった。強烈な突きを二発喉に喰らってなお、呻き声一つ上げない。こいつ本当に人間か。そう思う間もなく、男の左手が空を切った。その狙いはおれ達ではなく……天井の照明!けたたましい音と共にガラスが砕け、あっという間に周囲に闇が満ちる。
「気をつけろ、来るぞ」
 直樹の押し殺した声とほぼ同時に、じゃ、と風が闇を裂く。かろうじて間に合ったのか、直樹のブラシと何かが衝突する音が響く。攻撃が来た方向に直樹がブラシを振るうが、すでに相手はそこには居ない。またしても攻撃。男は暗闇の中の戦闘に慣れているのか、音も立てず移動しこちらの死角から攻撃をしかけてくる。流石の直樹も、相手が攻撃をしかけてくる方向が読めない以上、一拍以上の遅れが出ることになる。カウンターを取るどころの話ではない。四度、五度と攻撃が繰り返されるうち、次第に直樹が劣勢になってきた。六度目の攻撃を捌ききれず、直樹の右手がブラシから弾き飛ばされる。がら空きになった直樹の胴に迫る七撃目!
 ずるん、べったん。
 擬音で表現するとこんなところか。男が派手な音を立ててスッ転んだ。
「もう少し早く出来んのか。流石に焦ったぞ」
 ブラシをたぐりよせつつ直樹がぼやく。
「精神年齢を若く保つコツなんだろ?」
 おれは空になったフローリング用のワックスの缶を放り投げた。男は慌てて起き上がろうとして手をつくが、すでにそこもワックス塗れ。無様にもう一度地面に這った。闇の中とはいえ、その隙はあまりに致命的だった。インペリアルトパーズの瞳孔が開き、微かな明かりを増幅し金色に煌めく。
「……!!」
 鈍い音が一つ。闇の中、共用廊下の僅かな明かりでも直樹の刺突は正確無比だった。男は今度は玄関まで吹き飛ぶ。
「裏事情をきりきり吐いてもらわんとな」
「この床もきっちり後始末してもらわねえとな」
 ここが勝機。逃すわけにはいかない。おれ達は間合いを詰める。男はすでに起き上がっていた。にらみ合いが三秒ほど続く。だが、三度目の突きを喰らい、流石に体力も限界に達していたのか。男はくるりと踵を返すと、共用廊下の向こうに姿を消した。
「待てっ!」
 直樹が追う。しかしそこで奴が見たのは、廊下の手すりを軽々と飛び越え、五階の高さから真っ逆さまに落ちてゆく男の姿だった。その時にはおれも直樹に追いつき、二人そろって下を覗き込む。男はまるで、何事も無かったかのようにマンション前の道路を走り、闇夜の中に消えていった。
 十秒ほど間抜けな顔をしておれ達は階下を見詰めた後、どちらともなく口を開いた。
「「知ってたか?」」
 そして互いの顔を見やり、深々とため息をつく。
「ああ、結局こうなるのかよ!今回こそは冷房の効いた部屋で寝て金が貰えると思ったのに!」
「『あの所長が持ってくる仕事はまともだったためしがない』か。一体何時までこの言葉は継続されるのやら」
「おれ達の任務達成率が百パーセントを割るときじゃないのか?」
「何はともあれ、だ」
「ああ」
 おれ達は後ろを振り返った。そこに広がるは、照明を砕かれて闇に満ちた室内と、ぶちまけられた大量のワックスであった。
「一体どうしたものやら」
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月12日 (月)22時23分

登録社員名簿:050 『最後の一枚』 国枝 徹之介

「知ってんだろ?脱衣麻雀でもなあ、最後の一枚が堕とせねえもんなんだよっ!」

【名前】国枝 徹之介(くにえだ てつのすけ)
【通り名】『最後の一枚』(アイアンアンディ)
【所属】CCC (A級)
【年齢】28
【容姿】垂れ目に不機嫌そうな表情
【正業】CCC正社員
【経歴】
 自衛隊をドロップアウトした後、中東の民間警備会社で飯を食ってきた元兵士。
 武装組織に包囲され正規軍に見捨てられた某都市を、
その場にたまたま居合わせた異能力者達を指揮してついに守り抜いた実績を買われ
CCCに実働部隊のリーダーとしてヘッドハントされた。
 ところがその後のテストの結果、どういうわけか『負け戦』でしかその力を発揮できないことが判明。
 そのため常に失敗寸前の任務、不利な状況での時間稼ぎに投入されて七転八倒する事となる事となった。
 酒を飲むたびに「たまには勝ち戦に参加させてくれ」と愚痴る日々。
 当人も重火器の扱いとハンドガンによる近接戦闘に長けた優秀な兵士であり、単独でも充分に戦力となる。

【スキル】
『最後の一枚』(アイアンアンディ)
 部下達の異能力者達を相互に組み合わせ、部隊として動かす指揮能力。 
 通常の任務ではごく一般レベルの指揮官としての能力しか発揮できないが、
どういうわけか防衛戦、それも絶体絶命、敗北寸前といった状況に追い込まれるほど
部下の能力を活かした奇策を思いつき、神算鬼謀で敵を撃退、拠点を死守する。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月12日 (月)22時12分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 4

 時刻も午後七時を回ると、真夏とはいえ辺りは暗い。散々日本全土に熱線をばら撒いた太陽が退場しても、熱気どもは相変わらず傍若無人の限りを尽くしている模様だ。
「さて。そろそろ交代だな。直樹の野郎が来るはずだ」
 おれは呟く。もともとこんな留守番の任務を一人二人で延々とこなしていては気が詰まってしまう。昼夜交代しつつ張り込むというのが典型的なパターンだ。もっとも、おれのように自室より居心地が良かったりする場合はまた別なのだが。
「もうそんな時間かぁ」
 ようやく『ガラスの仮面』を読み終えた真凛が肩をまわす。この部屋に入ったのは午後三時ごろだから、おれ達は他愛ない話と文庫本で四時間をつぶしたことになる。
「おなかすいたなあ」
「夕飯は実家だったか?」
「そうだよ。陽司の麻婆豆腐が食べられないのはザンネンだけど」
「抜かせ。お前の家なら豪華和食がてんこ盛りじゃないか」
 一度事務所の冷蔵庫の残りもんを処分するために麻婆豆腐を作ったことがあるのだが、どうもウチの連中には好評だった模様。中華は一人暮らしの強い味方です。炒めれば多少食材が古くたってわからないしね。それはさておき、未成年を泊り込みで働かせるのは何かと不味いので、真凛はここで交代。明日の朝に再合流ということになる。
「最近は変なのが多いからな。気をつけて帰れよ」
「心配しなくても大丈夫だよ。ここからなら地下鉄で一本だし」
「そうか。もし変なのにからまれても、病院送りまでに留めとけよ」
「ボクは今リアルタイムでからまれてるわけだけど、病院送りでいいのかな?」
 おれ達がそんなくだらないやり取りをしていると、玄関のインターホンが再度鳴った。どうやら交代要員が到着したらしい。
 
「で、だ。当然予想は出来たことだが。いい加減に何とかならんのか、それ」
 おれは部屋に入ってきた男を一瞥するなり、初弾を放って迎撃した。
「ふむ。雅を解さぬ貴様には到底理解は出来ぬであろうな」
 腹の立つ男だ。歳の頃は二十歳前後。一応戸籍上は十九歳だったはずだ。すらりとした長身、一見華奢に見えるがバレエダンサーのように絞られた体格。そしてモデルのような小さな顔にシャープな輪郭と白い肌。なにより印象を決定付けるのが、星が流れるかのような長い銀髪と、インペリアルトパーズを思わせるやや吊り気味の茶色の瞳。ついでに鼻に乗せてるメガネが理知的なイメージをより強化している。要するに非の打ち所のない色男というわけだ。っていうかムカツク。服装はというと、薄手とはいえこのクソ暑いのに長袖のタートルネックなんぞを着込んでいる。
 笠桐《かさきり》・R《リッチモンド》・直樹《なおき》。自称日英ハーフのこの男が、おれ達『フレイムアップ』のメンバーの一員にして、今回のミッションの三人目のメンバーなのであった。十人近く居る事務所のメンバーの中でも、こいつとおれは特に昔から因縁が深い。とにかく一緒に並んで街を歩きたくない男なのである。老若の女性をひきつけてやまない顔立ちもそうだが、主だった原因は、
「それにしても何なんだその馬鹿でかい箱は。というかてめえ、そんなものをどこから持ち込んできやがったんだ」
 玄関口からスイカの海を乗り越えてきた直樹が右手にぶら下げているのは、長期海外旅行用のスーツケースに匹敵するほどの馬鹿でかい箱である。大手電気店兼サブカルチャー品取扱店の包装紙で厳重に梱包されており、『そういった類』のものであることを雄弁に物語っている。
「同時に二つの質問をするとは、相変わらず性急な男だな貴様は。順番に答えよう。まず一つ目、この箱の中身だが――」
「あ、いいやっぱ聞きたくねえ」
「――明日発売、『サイバー堕天使えるみかスクランブル』ブルーレイBOXと、初回特典のコンプリートフィギュア十三体コレクションだ。ブルーレイの方は放送時にカットされた映像の完全版と監督および声優陣によるオーディオコメンタリーを収録。フィギュアは長いこと立体化が望まれていたサリっちこと第十一堕天使サリエルとナス美こと第十二堕天使サルガタナスがついに出揃っている。当然ながら凄まじい人気でな。予約を逃したために本日開店前から並ぶ羽目になった」
 ワケの解らない単語を並べるな。っていうかサリっちだのナス美というのは誰がつけた愛称なんだ。そもそもどこが当然なんだ。
「で、てめえはそれを買うために夏の朝っぱらから秋葉原の店頭に並んでいた、と」
「朝ではない。昨夜からだ。さすがに日差しがきつくなってくると堪えたが、何、苦労に見合うだけの成果はあった」
 阿呆だ。阿呆がここにいる。
「そして二つ目の質問だが――。包装紙から判るように秋葉原の某大手電気店ということになる。そしてここは同じ千代田区。購入後ここまで歩いてくることなど造作も無い」
「物理的には造作も無いだろうよ。で、お前はそんなもんぶら下げて天下の公道を歩いてきたというわけだ」
「正確には日没まで一日中秋葉原を散策していたわけだがな。戦利品も中々のものだぞ」
 良く見れば左肩に下げた鞄はみっちりと膨れている。おれには良くわからんが本やらポスターやらをまたぞろ大量に買い込んだのだろう。そう、これがコイツと並んで街を歩きたく無い理由。ほとんどの女性が嘆息する外見とは裏腹に、コイツはアニメや漫画、ゲームの美少女にしか興味がないのであった。
 おれ以上に稼いでいるくせに、こいつの生活レベルはおれより低い。稼いだ給料をこいつは惜しげもなくこの手のグッズに投入しているせいだ。
「お前の戦果報告なんぞどうでもいい。そんなもん職場に持ち込むなよてめえ」
「留守番任務に関しては、私物の持ち込みは認められているだろう。始終小物を事務所に置きっぱなしにしている貴様には言われたくないな」
「おれが持ち込んでいるのはせいぜいが健康グッズの類だ。ちゃんと職場にだって貢献しているだろうが」
 しがない貧乏人たるおれのささやかな趣味は健康グッズの収集である。足のツボを刺激するサンダルとか、目元を冷やすジェル型のシートとか、そういったものをときどき買い込んでは事務所に並べている。人間健康第一ですよ?小うるさいコイツや、もともと健康馬鹿の真凛あたりには事務所が散らかると不評なのだが、他の連中には概ね好評なのだった。ちなみに「腕の引き締め」「肌をキレイに」などとサブタイトルがついているグッズはだいたい一週間を過ぎた辺りで行方不明になる。現場をつかんではいないが、所長あたりが持ち帰っているだろう事は想像に難くない。
「とにかく。次の交代の時には自分の部屋に持って帰れよ」
 このスイカの海にそんなクソでかい箱と何かがみっちり詰まったバッグを置かれては、ますます足の踏み場も無い。ていうかそんな密室状態でこいつと同じ部屋に居たくねえ。
「了解した。俺としても大切な姫君たちをこのようなスイカの海に眠らせておくのは忍びない」
 うげ。姫君ってまさかその人形の事か。
「直樹さん、お久しぶりです」
 帰り支度をしていた真凛がおれ達のほうにやってくる。
「やあ真凛君。先日貸した『決戦竜虎』は読み終わったかい?」
「うん。凄く面白かったですよ~。ボクはやっぱり竜の英俊さんですね。虎の涯もかっこいいけど」
 スイマセン、君らの使う単語が理解デキマセン。
「あ、『サイバー堕天使』のブルーレイ買ったんですね。これってひょっとしてラファエルの最終奥義発動のシーンも入ってます?」
「無論。この話だけちゃんと延長されているそうだ」
「わかってるなあスタッフ」
「……あの。それってそんなにメジャーなアニメのか?」
 おれは恐る恐る尋ねる。
「「常識だ(だよ)」」
 ソウナンデスカ。何時の間におれは世間の常識人から外れてしまったのだろう。ちなみにそれから四十分ほど、真凛と直樹の二人がかりで『サイバー堕天使』のシナリオとキャラクターの魅力について懇々と諭されてしまった。結果、そのアニメに登場する十三体のロボットの形をした堕天使と、それぞれを守護天使に持つ女の子の名前を覚えた事が、本日唯一のおれの成果であった。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月10日 (土)21時54分

登録社員名簿:049 『黒い小魚』(スイミー)  ササキ・タケシ

「『さあみんな!力をあわせて悪いやつらを追いだそう!』……ってな」

【名前】ササキ・タケシ(仮名)
【通り名】『黒い小魚』 (スイミー)
【所属】フリー S級/業界の伝説
【年齢】不詳
【容姿】
 任務に応じ、憂国の青年、平和主義者、敬虔な聖者、行き場のない傷病兵、
 家族の健康を心配する一般市民などの顔を自在に使い分ける
【正業】エージェント専業
【経歴】
 元CIA工作員。政情不安定な国に潜入し反政府デモを組織する任務に就いていたが、
 「あまりにも適正があった」ためCIAに恐れられ消されかけ、
 暗闘の結果足抜けしてフリーとなる。
 
 フリーに転じてからは各国政府や大企業、軍需産業を主な顧客とし、
 独裁者の膝元で革命デモを蜂起させたり、
 愛国心をあおって外資が運営する店への放火や略奪をさせたり、
 兵器の在庫一掃のために小国の民族・宗教対立を煽り虐殺と紛争を引き起こしてきた。

 日本にも「ササキ・タケシ」の名で潜入。
 若年層の不安と不満を煽り暴動を引き起こそうとした事がある。
 その影響は株価の低迷など深刻な経済問題に結びつくため、
 各派遣会社は情報を持ち寄って彼の動向に眼を光らせている。

【スキル】
『自由と安心へのいざない』(アジテーション)
 天性の「煽り屋」。
 社会に不満を抱く弱者、不安を抱く強者の心理に滑るように入り込み、
 そしてそれらを組織し集団化することで心のタガを外し、
 暴動やデモ、虐殺などの短絡的な行動に走らせる。

 「自分のためにその才能を使っていたら英雄になれていた男」とも言われるが、
 当人は政治・宗教いっさいこだわりなくビジネスとして仕事を請け負う。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月10日 (土)11時29分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 3

「ふむ」
 規則正しく鳴りひびく電子音は、携帯電話の着信音に囲まれて暮らしている学生からすると随分と新鮮に感じる。電話はおれ達が今いるベランダ側とは反対、入口側にあった。直線距離で大股三歩だが、このスイカの海を掻い潜ってたどり着くのは容易なことではない。
「こういう場合はどうすればいいの?」
「依頼人の希望に従うとするさ」
 おれは焦らずオーダーシートを取り出す。留守番任務なのだから当然、来客や電話があった時の対応の仕方は依頼人に確認している。
「電話があった場合は出て、必要なら伝言を受けておくこと、だとさ」
 よっこらせ、とおれはスイカの海を踏まないよう慎重に歩を進め、受話器をとりあげる。ふと、今この部屋で地震が起きたらおれ達は間違いなくスイカで圧死できる事に気が付いて愕然とした。
「もしもーし」
 いかんいかん、ついつい自宅の調子になっちまう。
『…………』
 受話器の向こうから返ってきたのはステキな沈黙。
「もしもし。ちょっとお電話遠いようですが?」
『…………』
 どうやら電話機のトラブルではないらしい。しかたない。こちらから話しかけてみるとするか。
「やあハニー。シャイなハートが君のチャームなポイントだが、エニイタイムシークレットもミーにはノットソーグドですヨ?サムタイムにはアグレッシブなパッションでメルティナイトをエンジョイハッスルで如何ですカ?トゥデイのアンダーウェアはレッドオアブラック?ハァハァ」
『…………』
 ぶつ、と回線が切られ、あとは無機質なトーン音へと切り替わった。
「……」
 発信は当然非通知だった。
「誰からだったの?」
「三つ編みお下げが似合う純朴女子中学三年生。好きな人の前では上がっちゃって声が出せない性格なんだろうなあ」
 投げやりに答えて受話器を置く。モジュラージャックに高速逆探知システム『追ッギーくん』でもかましてやろうかとも考えたが止めた。そこまでの金はもらっていないはずだ。この手の任務で脅迫電話や無言電話にいちいち取り合っていたらキリがない。社長がヤミ金融に金を借りて遁走した会社の留守番を勤めたときなんぞ、脅迫電話の度に受話器を取っていたらやっていられないので、車載用のハンズフリー器具をセットしたものだ。おれは再び元の位置に戻り、何事もなく再び文庫本を広げた。
 
「ちょっと冷房強すぎないかな」
 おれは顔を上げた。物語は佳境に入っており、クトルゥフ神話張りのバッドエンドに向けて主人公達が次々と非業の死を迎えているところだった。ふと時計を見れば、もう夕方に差し掛かっている。さすがにいつまでも18℃でエアコンを回していると肌寒さを感じる。おれは温度設定を25℃まで引き揚げてやった。
「むう。困ったな」
「どうしたの?」
「いや。実はな。オーダーシートに明記してあるんだ。『エアコンは決して切らない事』、ってな。温度は25℃以下に保たなければいかんそうだ」
 つまり、エアコンをつけっぱなしで数日過ごさねばならないわけだ。涼しいのは大好きだが、寒いとなるとまたちょっと話は別である。
「結局、依頼人が帰ってくるのは明後日なんだよね?」
「ああ」
 オーダーシートにはきっちりその旨が明文化されている。おれ達の仕事はそこまで。仮にその時刻まで依頼人が戻ってこなくても知ったことではない。あるいは別料金で延長分を引き受けるか、だ。
「ん~。じゃあしょうがないか」
 真凛はすい、と立ち上がる。と呼吸を整え、
「へえ……」
 七瀬の流派だろう、武術の型を演じ始めた。別に真凛が急におれに踊りを見せたくなったわけではない。古武術ではウェイトトレーニングで局所的に筋肉を鍛えるより、己の理想とする動きをイメージしつつ地道に型を繰り返すほうが、その動きに必要な筋肉を効率よく鍛錬出来る、とかどこかで聞いたことがある。ヒマを持て余した真凛が鍛錬を始めたということだろう。その証拠に、冷涼な室内にも関わらず五分もするとたちまちその額に汗が浮き始めた。その型は極めて緩やかだったのだが、迂闊に間合いに踏み込んだらどんな体勢からでも反撃を繰り出してきそうな雰囲気を醸し出している。
 その様を何となく眺めていると、ひとつ大きなくしゃみが飛び出て身震いした。いかん。さすがにこのまま夜を過ごすとなると、今度は風邪を引くハメになりかねん。一度自宅に着替えを取りに戻るか。そんな事を考えたとき、
 ぴんぽん、と間抜けな音共に今度はインターホンが鳴った。
「はい」
 ちなみにこういう場合はあまり不必要なことを喋る必要はない。相手が依頼人の知人だった場合に、変に誤解されて警察でも呼ばれると何かと対応がやっかいだ。さすが高級マンション、新聞勧誘や訪問販売の類はホールでシャットアウトしてくれる。先ほど同様にスイカの海を泳ぎインターホンにたどり着く。ホールの監視カメラが捕らえた映像がそこに映し出される。カメラの向こうに居るのは荷物を小脇に抱えた宅配便のおっちゃんであった。カメラの向こう側でごくメジャーな宅配便会社の名前を名乗る。
『お荷物をお届けに伺いましたっ!』
「ありがとうございます」
 それにしても宅配便の人というのはどうしてこうヤケっぱち気味にテンションが高いのか。やっぱりテンションを上げていかないと務まらないほど辛い業務……いや、それはいい。ともあれ、おれは手元のオーダーシートをめくった。しがない派遣社員はマニュアルに従いますともさ。
『玄関を開けていただけますか?』
「すみませんが本日特に荷物が届く予定はありませんが?」
 おっちゃんはちょっと面食らったようだった。
『特急便ですので。まだ御宅に連絡が行っていないのかもしれません』
「申し訳ありませんが後日改めて連絡させていただきますので、本日はお引取りお願いできますか」
『は。しかし特急便ですのでお早い方が……』
「いえ。特急便を遅く受け取ったことによる損害はこちらの責任です。そちらにはご迷惑はおかけしませんので」
 一瞬の沈黙があった。
『わかりました。それではまた後日お伺いいたします。お騒がせしました!』
 映像の向こう、宅配便のおっちゃんは去っていった。おれはポケット手帳にオーダーシートを仕舞いこむ。
「まあ、ナマモノでもなかろうし気にすることもないだろ」
 おれは特に気にも留めなかった。損害は依頼人のせいなわけだし。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月07日 (水)23時11分

派遣会社概要:010 『ICSSSA(帝都社会保障支援機構)』

【社名】
 帝都社会保障支援機構
 →Imperial Capital Social Security Support Agency 通称イクサ(ICSSSA)。

【代表】
 小鳥遊 楓(たかなし かえで) 

【概要】
 CCCの成功に目をつけた東京都知事がゴリ押しで設立した半官半民のサービス業。
 CCC同様あらゆるトラブルの解決を業とするが、より公的な色合いが強く、
利益よりも治安維持や問題解決を優先する傾向が強い。
 登録社員にも一段厳しいモラルや身元が求められる一方、社会的信用は高く、
安定した生活を求める者、純粋に己の力を役立てたいと思う者が多く集う。

【所在】
 新宿西口、都庁近くの某ビル

【業務】
 消防、防災、治安維持が中心。
 大企業や社会的地位の高い人間からの「まっとうな」依頼が多いが、
時には「社会のため」何かを見殺しにしなければならないことも。
カテゴリー:_設定資料_派遣会社紹介 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月06日 (火)22時48分

登録社員名簿:048 『六連星』 宗谷 昴

「無間流、宗谷昴……参る!」

【名前】宗谷 昴(そうや すばる)
【通り名】『六連星』(むつらぼし)
【所属】ICSSSA
【年齢】20
【容姿】バレエダンサーを思わせる絞られた体躯、シャープな面立ち。
【正業】仏教系大学生
【経歴】
 田舎の古寺に伝わる「無間流拳法」の継承者。
 無間流はもともと村の名物住職として知られた祖父が、
旅の武芸者達に宿を貸して交流を持つうち、
様々な武術を取り入れて生み出したオリジナル武術である。
 昴の武術は、このまま一代で絶やすのも勿体ないと思った祖父に、
運動は苦手だが檀家の信望厚い二代目に代わって幼少の頃から仕込まれたもの。

 現在は寺を継ぐべく仏教系大学で学ぶ傍ら、
武者修行がてらICSSSAの任務に従事している。
 常に鋭い目つきに無表情のため怒っているように思われがちだが、
本人はお笑い番組の熱心なファンで、手帳に書きためたネタを披露する機会を待ち望んでいる。

【スキル】
『無間流拳法』
 昴の祖父が創設した拳法。
 各流派の体捌きを研究しつくし、避けたと思えば攻撃となり、
 拳かと思えば鞭となり、打撃と思えば投げとなる変幻自在の妙技をなす。
 対戦相手いわく、「まるで水と戦っているかのようにとらえどころがない」とのこと。

『無間流六連星』
 昴の生み出したオリジナル技。
 事前に一連の技を繰り出し、相手の防御、意識を完全に逸らしたところで
懐に飛び込み、股間、水月、壇中、喉、人中、唐竹を一瞬でたたき込む。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月06日 (火)22時28分

登録社員名簿:047 『黥印の魔女』スミカ・サリニャーナ・ホシザキ

「アタシのココ、見たいなら……見てみる?」

【名前】スミカ・サリニャーナ・ホシザキ
【通り名】『黥印の魔女』(ウィッチ・オブ・タトゥ)
【所属】シグマ
【年齢】21
【容姿】「グラビアアイドルみたいなすっげぇ美人」
【正業】自動車工場勤務
【経歴】
 ブラジル出身、色気丸出しの超ナイスバディに
極ミニと超ローレグの猥陳罪スレスレ衣装を好む日系美女。
 普段は関東の自動車工場で弟妹達のためライン工として地道に働いているが、
ひとたび任務とあらば一族に伝わる術と、その魅力でアグレッシブな活躍をする。
 男性が声をかければ気安く交際してくれるが、「使用不能になった」など被害者多数。

【スキル】
『黥印の牢獄』(ゲイル・タトゥ)
 母から娘へと代々受け継がれる、全身に彫り込まれた禍々しい文様の黥印(イレズミ)。
 普段はまったく見えないが、彼女が昂ぶり体温が上昇するとその肌に浮かび上がる。
 このイレズミの文様はそれ自体が『異空間への扉』を意味する魔術記号であり、
その文様の向こうは異次元の牢獄となっている。
 その内部には毒蛇、猛獣、恐竜や古代生物等までもが捕獲されており、
彼女は戦闘の際にそれらの獣を体内から呼び出して使役する。

『蠱毒の精髄』
 彼女の切札。
 下腹部に刻まれた黥印から、小さな毒虫
……千年以上毒草、毒虫、毒獣を黥印の中で殺し合わせ生き残った最強の一匹……を呼び出す。
 その一刺は、巨象、大蛇、異能力者、吸血鬼ですらも即死させるだろう。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月04日 (日)22時16分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 2

 涼しい。
 『涼』、なんていい言葉だろう。だいたい字面からして良い。水と京という清爽なイメージがまた素敵だ。清涼、涼風、涼雨。女性の名前でも涼子ってのがあるし。おれは前金を崩して買い込んだハーゲンダッツのアイスクリームの裏ぶたを舐めまわしつつそんなことを思考した。ただいまエアコンの設定温度は18℃。節電重視のこのご時世、電力会社のマスコットキャラクターに怒られそうな最大出力である。
「なんかビンボーくさいなあ」
 そんなおれの様子を眺めやって呟く真凛。いやまて、みんなやるだろう?ショートケーキの周囲を覆っているフィルムに付いてるクリームを舐めたりとかさ。
「やんないと思うなあ」
 馬鹿な。人としてのごく自然な所作のはずなのに。
「じゃあせめてフタをスプーンで掬ったりとかは」
「五十歩百歩だと思うなあ」
 そんな会話を応酬しながらフローリングの床に座り込み、ハーゲンダッツのバニラをひょいひょいと口の中に放り込む。胡座をかくおれとは対照的に、対面の真凛はフローリングに直に正座している。さすがに夏休みにまで制服は着ていないようで、本日の服装はサイズの一回り大きいワンポイント入りTシャツとショートパンツ。ストリートバスケに向かう中学生のような出で立ちはますます性別の判定を困難に……うん、視線がなんか冷たいので省略。ともあれ、体内に残留している熱気をアイスクリームが次々と討伐してゆく様を味わいながら、おれは至極幸せな気分に浸っていた。近場の学生向けの食堂でがっちり巨大メンチカツセットを平らげてきた今、エネルギー充填も完璧である。
「で。とりあえずはこの快適な部屋の中で居座っていればいいってわけだな」
 おれは周囲、つまりは千代田区内のとあるマンションの一室を見回した。
「快適な部屋、って言っていいのかなあ」
 こちらはハーゲンダッツのチョコレートを口に運びつつ、真凛が呟く。
「まあいいんじゃないか。少なくともこいつらのおかげで冷房つけっぱなしが許されてるわけだし」
 おれは手元にあった丸いものをぽむぽむ、と叩く。
 それは、バスケットボールほどの緑の玉に黒いスジが入った果物だった。言わずと知れた夏の名物、スイカである。夏の部屋にスイカ。珍しくも何とも無い光景である。本来は。
 問題が二つ。
 一つは、それが冷蔵庫に入っているのでもテーブルに乗っているのでもなく――床に無数に置かれたプランターから『生えて』いるということ。
 二つ目は、その数であった。
「七十はあると思うけど。ちょっと数えられないよ」
 空になったアイスクリームのカップを、持参したコンビニの袋にしまいこんで一つ息を継ぐ真凛。そう言うのもムリは無い。煌々と照らされるライトの下、おれの手前にはスイカ。右にもスイカ。左にもスイカ。真凛の周りにもスイカスイカスイカ。視界上下左右、全てスイカ。床一面を埋め尽くし、さらに層をなして山となっている無数の大玉のスイカたち。おれ達は今、マンションの一室の中ではなく、スイカの海の中に居るのだった。
「なんていうか。こう現実離れしてると好き嫌い以前の話って気がする」
 確かに。おれは空カップをコンビニ袋に放りつつ頷く。至近距離からのシュートだったのだがあっさり外れて、隣のスイカにぺこん、とぶつかった。シュール極まりない光景を見るにつれ、改めて何でこんなことになったのやら、と思い返さざるを得ない。
 
『東京都千代田区のマンションの一室にて、依頼人『笹村周造』氏が帰宅するまで留守を預かるべし』
 オーダーシートにはその一文と、依頼人の名前とマンションの詳細な住所、そして合鍵が同封されていた。おれ達は昼を高田馬場で済ませたあと、高田馬場から地下鉄を使って指定の住所にやってきたのだ。そこは秋葉原に程近い、千代田区外神田にあるオートロック式の新築高級マンションだった。外壁はぴかぴか。塗料の匂いが漂ってくるほど真新しい。
 今回おれ達が受けた仕事は『留守番』である。その仕事は文字通りの『留守番』。つまりは人が家や部屋を空ける時に代わりに居座って番をする、というものだ。何をしょうもないことを、と仰る向きもおられるかと思うが、おれ達の業界ではこれがなかなかどうして需要が多い。一番良くあるのは、ペットを室内で飼っているのに長期に部屋を空けなければならない一人暮らしの方の代理。この場合はペットの散歩や餌やりなどの仕事も必要となる(そう言えば、クロコダイルに毎日生肉をあげるハメになった奴もいた)。そして次に多いのが防犯。長期不在の間に空き巣が入らないよう、適度に明かりをつけたり部屋の雨戸を開けたりして、『人が住んでいる感』を演出するというもの(当然、こちらが信頼されていることが絶対条件となるが)。時には空き巣と遭遇し、犯人をとっちめる、という展開もありえる。そして、その次に多いのが、アリバイ作り。
「アリバイ、ってもしかして、犯罪に使われたりとかするわけ?」
「いやあ。単身赴任の旦那さんが浮気で外に出ている間、ご近所に部屋にいるように見せかけたりとか。ウソの住所を彼氏に教えてる女の子の兄貴の役を演じたりとか」
「……殺人事件でウソの証言するのとどっちがいいか迷うよね、そういうの……」
 道中、真凛が心底情けなさそうな表情で感想を述べたものだ。いい加減おれ達の仕事がそうそう格好良いモノではないという事がわかってきた模様。ザマを見さらせ。
「まっ。数ある仕事の中でもダントツに楽な部類に入るのは確かなことだぜ」
 何せ部屋の中でごろごろしてれば金がもらえるわけだからな。健康体であろうが熱中症でぶっ倒れていようが、部屋の中でやることと言えばごろごろするだけ、というおれのような人間としては願ったりかなったりの仕事である。間取り図によれば室内は1DK、ダイニングと部屋が引き戸で区切られており、おれと真凛が手足を伸ばしても充分過ぎるスペースがあるはずだった。その上新築で冷暖房完備とあれば言う事は無い。所長もたまにはいい仕事を回してくれるものである。そんなことを考えつつ、おれは鼻歌交じりで渡された合鍵でドアを開け――そして、絶句したのだった。おれ達を出迎える、ダイニングと部屋にあふれる生い茂ったスイカの山、山、山。ごろごろするどころか、ごろごろしている。
「……何これ?」
 真凛の率直極まりない疑問にもおれは返す言葉がない。最初は本気でここは八百屋かと思ったほどだ。もしくは野菜冷蔵室か。ところがここは都内の高級マンションの一室に相違なく、部屋にあるのはただ無数のスイカと、それを冷やすためだろうか、全開で稼動しているエアコンのみ、だった。
 それでも、こんな異様な光景も三十分ほど過ぎるとそれなりに慣れてしまったりするあたり、自分が怖い。文字通りのハウス栽培のせいか、スイカの蔓には虫などもついていないようだ。で、今おれ達は周囲のスイカどもをかき分けてスペースを作り、どうにか居場所を確保しているというわけである。アイスクリームを片付けてしまったおれはザックを枕にして横になった。
「良くこんな所で寝れるよね」
「タフだと言ってくれタマエ」
「いつもごちゃごちゃした部屋に住んでるからじゃないの?」
「失礼な。おれの部屋は結構キレイだぞ?」
 これはそれなりに自信がある。意外に思われるが、おれは割と部屋は片付いているほうだったりする。もっとも、ごちゃごちゃモノがあるのは好きな方ではないので、散らかっていないというよりは不要なものはさっさと捨ててしまう、という方が正しいのだが。
「むしろお前の部屋の方が散らかったりしてるんじゃないか?」
 日ごろのガサツっぷりを拝見するに。
「えっと。お手伝いさんが時々掃除に来てくれるから」
 このお子様に世間の荒波を今すぐ叩き込んでやりてぇ。
「で。この部屋の持ち主、ええっと。笹村さんってどんな人なの?」
「どっかの会社の研究員らしいけど」
「ってことは。このスイカと関係が?」
「さあ。知らね」
 率直過ぎるおれの返答を受けた真凛がのけぞる。
「し、知らないって、いくらアンタでも無責任すぎない?」
「無責任も何も。『依頼人の素性には関与しないこと』ってのがこの依頼の条件だからな。むしろおれは立派に責務を果たしているぜ?」
 事実である。この手の留守番の仕事にはとかく後ろめたい依頼人が多かったりするので、素性や依頼の理由については知らされない事の方がむしろ多いのだ。もちろん情報ゼロで契約を結ぶほどこの業界は阿呆ではない。『危険はない』事を示す高額の保証金を預かるかわりに、一切素性や理由に干渉しない、とか、依頼人と派遣会社の間でのみ守秘契約が結ばれており、おれ達のような下っ端実働部隊には詳細が知らされていない、なんてのが良くあるパターンだ。
「それって、実はすごく危険な任務だったりするんじゃない?」
 だからどうしてお前はそういう台詞を凄く嬉しそうに言うのか。
「スイカの番をするのが?」
「うぐ」
 とはいえ、確かに異常な状況ではあるのだが。
「高級マンションの室内で野菜を栽培。室内菜園は今日び珍しくない趣味だしな」
「趣味、なのかなあ」
「数が桁違いに多いことを除けば、な」
 とはいえおれ自身も本当にそれで納得したわけでは無いが。
「まあ、本当にリスクがあるんだったら、留守をどこの馬の骨とも知れない派遣社員なんかにゃ任せんよ。警備なら警備で、こないだ会った門宮さん達の仕事になるさ」
 例え何か途方も無い陰謀があったとしても、『何かをしなければいけない』のではなく、『何もなければそれでいい』のだ。そういう意味でも『楽な仕事』ということ。おれは寝そべったまま、ザックから雑誌や文庫を取り出す。これもハーゲンダッツと一緒にコンビニで買った物だ。何冊かと事務所から持ち出してきたクッションを真凛に放りやると、おれはこの間門宮さんから教えてもらったファンタジー小説を読み始めた。ジュースやスナック菓子も引っ張り出して完全にカウチポテトを決め込む。ちなみに水や電気は常識的な範囲内では自由に使ってよいとのお触れも頂いており、周囲から無言のプレッシャーを加えてくるスイカ君たちとその甘い香りにさえ慣れてしまえば、まったく天国のような仕事だった。
「うーうーうぅ。でもなあ、それだとあんまり意味がないって言うか」
 ところが真凛はお悩みのご様子。そんなにこないだみたいなバケモノとガチやりたいのかねこのお子様は。
「それはそうだよ。フレイムアップと関わって、自分が今までいた世界よりはるかに強い人たちがいる領域を知ったからこそ、このお仕事を始めたんだから」
 それまでは新宿ストリートでも実家の交流試合でもほとんど負けなしだったのだから、真凛にとってはそれは人生を一変するほどの一大事だったのだろう。かくて『ボクより強い奴に会いに行く』理論のもと、七瀬真凛はウェイトレスもレジ打ちもやらず、はたまたショッピングや部活動に明け暮れることもなく、女子高生としての夏休みをこんな所でスイカに埋もれて過ごしている。金に困っているわけではないのに。そういう屈託のなさが、少しばかりおれには好ましく、そして羨ましい。
「そう言えばさ」
 難儀な顔をして文庫版『ガラスの仮面』を読んでいた真凛が顔を上げる。
「あんたは何でこんな仕事始めたの?」
 あれ?言ってなかったっけか。
「よくあるだろ?社会勉強を通じた自分探しの旅だよ」
 は?と真凛が呆け面をする。
「『おれがこの世に生まれてきた理由』を見定める、って奴さ」
「……冗談だよね?」
「冗談だよ」
 カッコつけすぎ、と真凛は文庫本に視線を落とす。実際、仕送り無しの学生は何かにつけて金がいる。花の東京一人暮らし、全く金銭的には楽ではないのだ。と、真凛が文庫を読み進めながら、でもそれならわざわざこの仕事でなくてもよかったんじゃない?などと問いかけてきた。
「まあ、出来ることから逆算してったらこうなったんだよ」
 おれは素っ気無く答えてチョコレートに手を伸ばそうとして、その手は空中に止まることになった。
 部屋の電話が、鳴り出したからだ。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月04日 (日)21時50分

人災派遣のフレイムアップ 第2話 『秋葉原ハウスシッター』 1

 暑い。
 視界の中を街路樹が急速に接近しては後方へと流れてゆく。じりじりと天に昇っていく太陽の下、遠近法のお手本のような風景を次々と突っ切りながら、おれは必死に自転車のペダルをこぎ続けた。
 暑い。
 八月に突入すると、東京に居を構えている己の迂闊さというモノを時々深刻に呪いたくもなってくる。毎日毎日丹念に、アスファルトとコンクリに塗りこめられていく赤外線の波動。それは毎夜の放熱量を徐々に上回り、次第にこの世界をもんわりとした湿気と、縦横に交叉する熱線で築かれた狂気の檻じみたものへと変えていくのである。特に今年は例年にない異常気象……なんか毎年そんな事を言っているような気もするが……とのことらしく、もはや沸き立つ熱気が視覚に捉えられるほどである。そうここはまさに牢獄。地獄巡りナンバー4、焦熱地獄。リングのロープも蛇の皮で出来ていようってもんである。
 暑い。
 ……いかん。少し気を抜くと思考がどんどん横道に逸れていく。おれは自転車の籠に放り込んであるペットボトルを取り出し、少量口に含んだ。一応防熱カバーをかぶせてあるはずなのにすっかり温くなってしまっている。ただいまおれに携帯が許された水分はこのペットボトル250ml一本のみ。それももはや過半を使いきり残りはごくわずか。必死に自転車を漕ぐおれの背中に、近頃の環境汚染で色々とヤバイ種類の波長を含んでいそうな太陽光線がざすざすと突き刺さってゆく。Tシャツに覆われた胴にはひたすらに熱が篭り、覆われていない二の腕から先はむしろ塩を擦りこまれているがごとき痛みだった。
 暑い。
 街道沿いにいくつも見かけるコンビニが、涼んでいけよ、冷たい飲み物もここにあるぞ?と脳内のエセ天使どものごとき誘惑を投げかけてくるのを必死に振り払いペダルを踏み込んでゆく。一度コンビニに入ってしまったら再び気力を奮って自転車に跨れる自信はまったくなかった。それにどのみち、コンビニで飲み物を買えるほど財政に余裕があるなら、最初から私鉄に乗って悠々と冷房の効いた車内を満喫している。目下のおれの所持金は六十五円。あと十五円あれば小ぶりの紙パックのジュースが買えると言うのに、そんな思考すらも振り捨てて、必死に新宿は高田馬場を目指して自転車を進めてゆく。
 暑い……。
 体内物質の残量を把握することは、おれにとっては容易い。しかし忌々しいことに、把握できているからこそ、今体内に残された水分が深刻な状況に陥りつつある、という事態が極めてリアルに理解できてしまう。忌々しくも猶予は無い。そして何よりも、あの忌々しい事務所にたどり着けなければ生き延びることが出来ないという状況こそが最も忌々しい。そんな思考を神経に巡らせる脳内放電すら惜しみ、おれは疾走した。
 ――そもそもの事の起こりは八月の頭。ちょっとした個人的な事件に遭遇し、その際に(おれにとっては)大量の経費を支払ったのが発端である。そのうえ後遺症のひどい頭痛で寝込むはめになり、アパートの自室で食事もままならない状態に陥ったりしていた。横になっていれば体調も良くなるだろうとタカをくくっていたが、じりじりと上昇しつづける真夏の室温はおれの体力をむしろ奪っていった(ちなみにエアコン付きの部屋などというものは、おれの入居時の選択肢にそもそも存在していなかった)。
 そうして三日後。事ここに至ってようやく、これは援軍が来ない篭城戦に過ぎないという事態を認識した。そして死力を振り絞ってどうにか起き上がってみれば、元々乏しかった財布の中身はエンプティ、冷蔵庫の中身はスティンキィ、おれの腹はハングリィ、と綺麗に韻を踏んだ状態だったのである。とにもかくにも、生命活動を維持しなければならない。これでも死んでしまうと色々と彼方此方から文句を言われる身である(文句を言う奴ほどおれの生活を援助してくれないのだが)。そうしてふらつきながらようようアパートの扉を開き――周囲に広がっているこの焦熱地獄を改めて認識した、とまあこういうワケである。このまま資金もなく外に出ては半日も立たずに物理的に死亡が確定するだろう。熱波という兵力にぐるりと包囲されての兵糧攻め。ついでにいうなら保険証は学友に借金のカタに貸し出し中のため病院も不可。進退窮まったおれに、まだ止められていなかった携帯電話からメールの受信音が鳴り響いたのだった。
『仕事。即日。前金。』
 差出人は言うまでもないがウチの所長である。たった六文字三単語は、まるでこちらのシチュエーションを全て把握しているかのような三点バーストで的確におれを貫いた。おれは時計を見やる。電車に乗るカネもない。しかし残された僅かな余力をかき集めればなんとかここから高田馬場までの自転車通勤は可能だった。
 そんなワケで、おれに選択権は無かったのである。……いや、まあ。いっつも無いんだけどね。
 
 
「で、丸一時間かけてこの炎天下を走ってきた、と」
 今日もサマースーツを颯爽と着込んだ所長が、呆れ顔で見下ろしている。
「君って間抜けなようで計算高いようで、時々とんでもなく間抜けよねぇ」
 電話くれれば迎えに行くぐらいはしたわよ?と所長は述べる。
「……」
 事務所の床に大の字にひっくり返っているおれにはもはやコメントを返す気力も無い。そもそもこんな行動を選択する時点で充分に脳がやられていたと思われる。
「ホント、熱中症を甘く見ると痛い目にあうわよ?脳細胞が物理的に煮えちゃうんだからね。君の唯一の資本なんでしょ」
「面目ないっす……」
「っていうか、よくこんなになるまで部屋で寝てられたよね」
 炊事場から戻ってきた真凛が、水で濡らしたタオルをおれの顔に乗せる。ここにいるという事は、今回もこ奴とコンビを組むはめになったようだ。
「……鼻と口を……塞ぐな……それから……タオルはちゃんと絞れ……」
 などと言いつつ、タオルごしに吸い込む水蒸気でも今のおれにはありがたい。
「スポーツドリンクも買ってきたんだけど、文句言えるくらいなら要らないかな」
「……嘘ですゴメンナサイ……申し訳アリマセンでした真凛サマ……」
 はいはい、と手渡された缶飲料を少しずつ口に含み(すでに一気に摂取すると逆に危険な状態だった)、おれは全身の調節機能を徐々に回復させ、水分を体内に染み渡らせていく。真凛がしょうがないなあと言いつつ、机にあった下敷きでおれを扇ぐ。首もとを撫でる風が心地よかった。
「でもさ。いくら何でももうちょっと早く誰かに連絡するなりしなかったの?」
「そう言わないであげなさい真凛ちゃん。男の一人暮らしなんて一歩間違えれば、それはもう都会の孤島、コンクリートジャングルの哀れな被捕食動物に過ぎないんだから」
 亘理君は友達もいないしねえ、とつけ加える所長。
「……ひどい言われようですが、概ね正しいですよ」
 半身を起こし、真凛から再度缶を受け取って今度は一気にあおる。脳内の化学物質をちょいちょいといじって血流を増加。血管に急速に水分を補充してゆく。一瞬視界がブラックアウトしかけたが、それを乗り切ると見違えるように気分が良くなってきた。
「頭痛はどう?亘理君」
「おかげさんで吹っ飛びましたよ」
 三日も経てばそろそろ収まってくれないと困る。
「ついでにその、カロリーの類も補給させていただけると誠にありがたいのですが」
「じゃあ頑張って仕事しようね!」
 鬼。
「一人暮らしって大変なんだねえ」
「ウム。自宅通学のお前にはこの苦労はわかるまい」
「今度なんか作りにいってあげよっか?」
「……おれお前に殺されなきゃならないほど恨まれてたっけ?」
 致死劇物を食わされてたまるか。ぐあっ、下敷きで縦に殴るな、っていうかお前が振り下ろすとむしろ斬撃だ。
「して。そのまあなんというか」
 おれは携帯を弄び、言葉を濁す。
「安心しなさい。寛大な依頼人に感謝することね」
 用意していたのだろう、所長は内ポケットから封筒を抜き出すと、おれにぽん、と手渡した。
「おっおおうっおおおぅっ」
 何だかあんまり他人には聞かせられないような喘ぎ声を漏らしてしまったが勘弁して欲しい。久しぶりの諭吉先生はおれのココロを絶頂に導くに充分であったのだ。
「今日のお昼はちゃんと食べなさいよ?まずは体力をつけないとね」
「あっありがとうございます所長ぅっ」
 力士宜しく手刀を切って封筒を押し頂くおれ。ああ何とでも言うがいい、貧乏の前には誇りなど二束三文で売ってみせるともさ。
「じゃ、亘理君。オーダーよろしく!夜から直樹君も合流するから頑張って!」
 所長はおれが前金を受け取るや否や、さっさとジャガーのキーを引っ掛けて上機嫌で外に出て行こうとする。そのあまりの上機嫌っぷりに、おれの心にふと疑念の黒雲が沸いた。
「あのう、所長。またなんか企んでたり、しませんよね?」
 弊方の質問事項に対する我らが嵯峨野浅葱所長の回答は以下の通り。
「なんか企んでたら前金返す?」
「まさか」
 じゃあどっちでもいいでしょう、と言い残して、所長はとっとと去っていった。おれに残されたのは前金と、そしてその封筒から出てきたオーダーシートと、何かのカギのみ。
 時に思う。超能力やら格闘技やら人間外の遺伝子やらがあるだけで白飯が食っていけるのなら、世の中苦労はしないよなあ、と。
カテゴリー:_小説2話 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月04日 (日)01時28分

登録社員名簿:046 『夜削ぎ』

「到着した。それではミッションを開始する」

【名前】CFS-GNBXXX
【通り名】『夜削ぎ』 (ナイトスクレイパー)
【所属】シグマ・コーポレーション
【年齢】Ver4.21
【容姿】様々な電子機器を搭載したスマートバイク
【正業】バイク
【経歴】
 某大学の博士と某民間企業が共同開発した、AIを持ち自律走行を可能とするスマートバイク。
 肝心のAI部分がブラックボックス化されたまま博士が逝去し、量産化が頓挫してしまった。
 そのままお蔵入りになっていたところを、シグマ社がプロジェクトごと買収。
 AI以外のフレーム、デバイス、コンポーネントを最新の物に換装し、最強の自律軍用バイクへと変貌させた。
 『夜削ぎ』の二つ名は、データ収集のため深夜に山中を無人走行していたところ、
走り屋の間で都市伝説としてつけられた名前であり、彼(?)自身も気に入っている。
 よく似た誕生経緯を持つカーナビ『KI2K』には極めて強いシンパシーとライバル意識を抱いており、
任務で相まみえる時を待ち望んでいるという。

【スキル】
『フリーラン』
 『夜削ぎ』は実は二輪ではなく四輪であり、
状況に応じてタイヤの径と幅を自在に変化させることが出来る。
 瓦礫や沼地などの悪路では幅広い四輪で走破し、
高速道路に出れば四輪を揃えて二輪とし、かつ細く大きいタイヤ径に変形させ、
人間の安全を考慮しない凄まじい速度を叩きだす。

『ウェポンラック』
 随所に武装をマウントできるハードポイントが設置されており、
任務に応じて重火器、他の能力者の装備、センサー類、はたまた補給物資等々、
あらゆるものをフレキシブルに装備することが出来る。
 当人のお気に入り装備は、突撃用の巨大な衝角。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月04日 (日)00時46分

登録社員名簿:045 『鉄砲玉』 雑賀 なずな

「獲ったりィ――ッ!」

【名前】雑賀 なずな(さいが なずな)
【通り名】『鉄砲玉』 (パラベラム)
【所属】CCC
【年齢】16
【容姿】ギャル系を目指す一般的な女子高生
【正業】女子高生
【経歴】
 ごく特徴のない女子高生、実家がヤクザという事を除いては。
 代々某組の幹部を務めるヤクザの娘として生まれ、教育と本人の資質が融合し、
『敵対する組長と刺し違えて死ぬ事がもっとも素晴らしい人生』と思い込むようになる。
 両親の英才教育の成果もあり、齢十六にして立派な鉄砲玉へと成長。
 CCCの業務で日々ドスチャージに磨きをかけながら、
使命を果たすその時を待ちわびる人生葉っぱ隊。
 彼女の通う高校はいわゆる不良が多いのだが、
あまりに『覚悟』の基準がずれているために、
クラスメイトからは不思議ちゃん扱いされている。
 
【スキル】
『刺突』(ドスチャージ)
 長ドスを腰だめに構えて敵に突撃する、シンプルかつ強力な攻撃。
 一度発動すれば例え銃弾で迎撃されようが横からトラックが突っ込んでこようが、
 構わず相手にまっすぐつっこんで腹を刺してえぐる。

 剣術の腕そのものは、派遣業界の他の達人達に比べると見劣りするが、
長年の修練と、全く迷いやブレなく突っ込んでくるこのドスチャージだけは、
油断すべからずと警戒されている。
カテゴリー:設定資料_キャラ名鑑 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月04日 (日)00時07分

スマホ向けサイトの整理を行いました。

最近ではスマートフォンで閲覧されている方も多いと伺いましたので
(ってかそういえば自分も最近ほとんどネットはスマホで見てた)
スマホ向けのページ構成をリニューアルしました。
とりあえずページの一番アタマの方にある「カテゴリー」を押してもらえれば
もろもろお目当ての小説やリプレイにストレスなくたどり着けるかと思います~
カテゴリー:開発記録 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月02日 (金)00時30分

派遣会社概要:009 『拝崎芸能プロダクション』

【社名】
 拝崎芸能プロダクション
【代表】
 拝崎 ”THE☆ゴールデン・エスパー” 錦太郎 (おがみざき きんたろう)

【概要】
 昭和、かつてテレビが最高の娯楽だった時代にお茶の間を沸かせた『エスパー』、
拝崎錦太郎が独立開業した芸能事務所。

 オカルト番組等に出演する霊媒師、超能力者、手品師や大道芸人達を中心にプロデュースしている。
 トリックや話芸で演出するプロの芸人に加え、一部、『本物』の能力者が所属。
 拝崎の絶妙な振り分けにより、芸人達を「本物かも」と思わせ興味を引き付け、
逆に本物を「トリックだろ」と思わせ全力を行使できる環境を整えている。
 戦闘向きではないが、幻術や演出、心理操作を得意とする能力が多数所属。
 下積み活動と称して、通常任務にも積極的に能力者を派遣している。

【所在】
 東京都港区赤坂 年季の入った雑居ビルの4F-6F

【業務】
 所属タレントを超能力やオカルト番組、バラエティの心霊特集などにプロデュースしている。
 時には「本当にヤバい心霊スポット」で除霊を担当したり、
 微妙に人気が下り坂の歌手の前座として歌い、観客の『テンションを上げる』などの任務も。

カテゴリー:_設定資料_派遣会社紹介 | タグ:
|コメント(-) |トラックバック(-) | 2015年10月01日 (木)00時00分
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。